31話・随分と器用に泣けるのだな
「どういうことだ?」
石工達の変わりようには驚いた。
「君たち、この山へ入り込んだ自覚はあるか?」
「ここはどこですか?」
石工の一人が聞いてくる。ノースデン山だとノアールが教えると、目を剥いていた。
「えっ? あの、青金さまがお住まいになられていると言うノースデン山? 本当に?」
「嘘だろう?」
「何で、俺がここに?」
「ちっとも意味が分かんねぇ」
皆、今までの記憶がないようで、周囲をキョロキョロと見回していた。そこに嘘はないように思われた。その彼らは知らない間に、ノースデン山に入り込んでしまっていたことに対し、恐れを抱き始めた。
「俺たち、立ち入り禁止の場所へ入り込んで、罰せられるのか?」
記憶はないとはいえ、彼らのした破壊行動は許されるものではないかも知れない。でも、自覚を取り戻した彼らには常識があったようで、このノースデン山に許可なく入り込んだことに対し、取り返しのつかないことをしたと思い始めたようだった。
「申し訳ない。どうか罰せられるのは俺だけでお願いします。家族は見逃して下さい」
「俺も。お願いします」
「俺はどうなってもいい。家族だけは見逃して下さい」
一人の石工がその場に跪き、皆がそれに続いた。石工達は家族が連座となって罪を償うことを恐れていた。必死に何度も処罰なら自分だけをと、訴え出た。
「どうする? クリュサオル殿?」
判断を仰ぐようにアコダが聞いてくる。その隣にはカルロッタもいる。
「いつものように消してくれ。12人もいるから二人で頼む」
「了解」
そう言うなり二人は、石工達に向けて何か眩い光を放ったと思ったら、この場から皆を連れて瞬間移動した。急に大勢の人が消えて驚いた。竜人が魔法を扱うのは、以前アコダにハムスターの姿にされた時に知ったが、大勢の者達を移動させる力があるなんて驚いた。
彼らを見送ってからノアールは、隅の方に隠れていたリョクショウに声をかけた。
「リョクショウ。おまえからは何もないのか?」
「えっ? わらわ?」
「何も気が付いていないのか? それとも演技か?」
リョクショウは、ノアールに声をかけられると笑顔を見せて駆けつけてきた。背後からブルーノが止める声が上がったようだが、彼女は気にしていなかった。
「リョクショウ!」
「ノアールさま。助けてくれてありがとう」
ノアールに飛びつこうとした彼女から、不快な匂いが香ったと思ったら、彼は彼女の手を掴んでいた。
「無自覚か? 意図的に行っていたのか?」
「何を言っているの? ノアールさま」
「私がこの匂いの正体に気が付かないとでも?」
ノアールに腕を掴まれたまま、リョクショウはキッと私を睨みつけた。
「わらわの邪魔をしているのはおまえか?」
「何のことですか? 知りません」
ノアールから良い反応をもらえなかったからって、私のせいにされても困る。私は何もしていないのにと言えば、彼女は顔を顰めた。
「わらわの魅了にかからないなんて……、石工達も正気に戻ってしまったし、考えられるとしたら、おまえのあの変な声のせいに違いない」
「やっぱり、石工達を惑わせてこの山に連れてきたのは、おまえだな?」
ノアールに睨まれて、彼女は目を潤ませた。
「ノアールさまの顔、怖い。嫌だ」
「元からだ。悪いな」
ノアールは彼女の涙に、絆されることはなかった。そればかりか彼女に冷たく言った。
「随分と器用に泣けるのだな?」
「酷い。わらわはノアールさまに疑われて悲しいのに」
「誤魔化すなよ。おまえ魅了の力を持っているだろう?」
「この女に何か言われたの?」




