34話・真打ち登場?
「石工達を魅了したのはどうしてだ?」
「……ブルーノがいつまでも、竜胆に執着しているのが我慢できなくなったのよ。竜胆はもう亡くなったのに。顔を見ていると腹立たしくなってきて、竜胆を思わせるものを全部壊してやりたくなった。だからわらわの手足となって動く即戦力が欲しくなった。全てわらわ好みの物で埋め尽くしてやりたくなったのよ」
ノアールの問いに、彼女は不貞腐れたように答えた。ブルーノにとってリョクショウは娘のような存在でも、彼女にとってはそうではなかった。彼にそれ以上の関係を求めていたように私には聞こえた。そのままならない思いが、歪んで暴走してしまったように感じられた。
「それで屋敷や、道を彼らに作らせていたのか?」
「はい」
「孔雀石にこだわった理由は?」
「わらわが好きだから」
「石工達にはどうやって接触した?」
「たまたま結界の穴が開いている洞窟から麓の街に降りた時に、仕事が無いって愚痴っている石工を見つけたのよ。何人か同じようなことを言っていたから、ちょうど良いと思って。魅了したらわらわのいう事を聞いてこの山に来たわ。後はあんた達が知っている通りよ」
「昨日の話では、おまえは結界の外に住んでいる者を、この山の中に引き入れてはいけない事とは良く分かっていなかったような話しぶりだったが、魅了までして連れて来たとなると話は変わってくる。分かっていてやったことになるが?」
「バレたなら仕方ないわね。そうよ。知っていてやったわ。泣いて誤魔化せばどうにかなるかと思ったけど駄目ね。魅了にも引っ掛からない男だもの」
リョクショウは、開き直った態度を見せた。
「で、わらわはどうなるの? 牢屋に入る? この山から追放? どうせ青金さまの裁きがあるまで待たされるのでしょう? さっさとしてよね」
「ではこの場で沙汰を下してやろう」
突然上がった声に振り返ると、美麗な男性とそれに負けず劣らず圧倒的な美女がいた。その後ろにはアコダとカルロッタが控えていた。アコダ夫妻が控えるぐらいのお方となれば当てはまるのは限られる気がした。
「もしやあの方達は──?」
「アイオライト公爵と、アルテミシア女王陛下だ」
思った通りの答えが、ノアールから返ってきた。ぎょっとした。アイオライト公爵と言えば、ノアール達の話に出て来たこの山の持ち主。青金さまと呼ばれる竜人たちの王でもある。その人は濃紺色の髪に金色の瞳を持つ美丈夫で、その隣に佇む美女は、金髪に青い目の聡明な女性。私達、国民が敬愛するお方。滅多にお会いする機会はなくて、話に聞くだけの存在が目の前にいた。
ノアールが跪き、リョクショウも頭を下げた。私も慌ててそれに続いた。ブルーノも何が何だか分からないようだったが、皆に合わせて頭を下げていた。アイオライト公爵は、麗しい女王陛下の騎士のように前に進み出て言った。
「クリュサオルよ。報告をせよ」
「はっ。此度の石工の件ですが、竜胆の後継者を名乗る者リョクショウが彼らを魅了し、この山へ呼び寄せておりました」
「リョクショウ?」
誰だ。それは? とでも言うような怪訝そうな声が公爵から返ってきた。
「ここにいる女性です」
「ふ~ん」
つい、先ほどまで強気でいたリョクショウは急に大人しくなった。さすがにアイオライト公爵である青金さまに飛びつくような無礼はなかった。公爵は観察するように見ていた。
「竜胆が死んだらしいな?」
「はい」
「いつ頃の話だ?」
「昨年の秋にございます」
「そうか。あいつはしばらく持つと思ったのに。不測の事態が起きたようだ」
そう言って公爵がリョクショウを睨みつける。金色の瞳に凄まれて、リョクショウは竦みあがったようだ。
「我の作り上げた最高傑作である竜胆が亡くなるとはな、そこの」
「は、……はい」
「おまえ、さては竜胆を害したな?」
皆の目がリョクショウへ向く。リョクショウの話を聞いててっきり私は、本体の方が自然に枯れたとかで亡くなったのかと思い込んでいた。それが違っていたかも知れない?




