26話・思わぬ来訪者
「リョクショウさんと一緒にいるブルーノさんは大丈夫でしょうか? リョクショウさんに食べられてしまったりしない? 保護した方が良いのでは?」
「恐らく大丈夫だろう」
「なぜ?」
「ロージイが言っていただろう? ブルーノは竜胆の内縁の夫だったと。あの女にとっては父親のようなもの。食べることはないだろう」
「でも、竜胆さんは食べたのでしょう? 食らったって伯父さんが……」
「あ──。誤解させていたか。食べたのは竜胆の体ではなくて、彼女の核となっていたもの、つまり青金さまが与えた魔石だ。それによって竜胆は妖精のような存在となり、青金さまの命を受けて山の管理をしていた」
「竜胆さんは、青金さまに作られた存在?」
「そうだ」
花から妖精を作ってしまうだなんて。青金さまは創造主のようだ。竜人である伯父さんが魔法を使えるくらいだから、その王である青金さまはやれて当たり前というか、当然のようなものなのだろうけど。
「ブルーノさんはそれを知っているのかしら? ブルーノさんって、崖から落ちて足を捻っていた上に、記憶を失くしていたから保護されたとか言っていましたよね? 記憶は戻ったのかしら?」
確かロージイからそんな話を聞いた気がして呟けば、ノアールが反応を示した。
「彼は外から来たのかも知れない」
「……!」
「崖はこの山の外れにある。竜胆は結界の様子を毎日、見に行っていたはず。そこで彼を見つけたのではないか?」
「ブルーノさんは崖の外にいた。つまり結界の外にいたと? そしてそれを見つけた竜胆さんが何か思って結界の中に入れたと?」
聞き返せば、ノアールは頷いた。アコダもなるほどと、頷いた。
「そうか。竜胆が亡くなったことで魔石を飲み込んだリョクショウが、竜胆の記憶を受け継いだ。それなら山の中から外にいる者を引き入れることが出きる」
ノアールの見解は、竜胆が結界の張られている山の崖の外に、ブルーノが倒れているのを発見し、結界の内側に引き入れたというもの。アコダは竜胆がそういう行動を取ったので、それをリョクショウが魔石の記憶を通して知り、石工をこの山へ招いていたのではないかと言った。全て推測でしかないが、まずはあの二人に聞いてみようという事で話は終わった。
翌朝。その当事者の一人がふらりと現れた。リョクショウの元に向かおうとしていた矢先のことだった。日傘を差した彼女は、玄関先に姿を見せた。私はそれに疑問を感じた。ノアールに聞こうとしたものの、彼が彼女を見ていたので聞けずに終わった。
「ノアールさま」
「リョクショウ? どうしてここに?」
「あなたさまが住まれている場所を見てみたくて。こんな侘しいところにお住まいとは。 言ってくだされば、わらわの家にいくらでもご滞在いただいて構わないですのに」
彼女は興味深く周囲を見ていた。彼女の住む壮大な建物から見れば、領主館は小さく古めかしく思えるかもしれないが、あの建物よりこの領主館の方が心地よい気がする私は、何だか馬鹿にされた気がしていい気はしなかった。彼女の顔を見て眉根を寄せたノアールだったが、ちょうど良いとばかりに領主館の中へと誘った。
「これからリョクショウの所に向かうところだった。聞きたいことがある。中へ入ってくれるか?」
「まあ、嬉しい。ノアールさまが訪ねて下さる予定だったとは」
リョクショウは瞳を輝かせ、ノアールに飛びつこうとした。その時、不快な香りがして思わず、「駄目」と、声をかけていた。




