27話・わらわは幼くない
「何じゃ、おまえは」
「あ、その……、匂いが」
「わらわが臭いとでも? 失礼な」
リョクショウに睨まれる。何と言い訳しようかと思っていると、ノアールがリョクショウを宥めながら促した。
「まあまあ、リョクショウ。とにかく中へ」
「は~い」
リョクショウはノアールに声をかけられると、態度を一転させた。日傘を閉じてノアールの後ろについて行く。それを面白くない気持ちで見送ると、アコダが言った。
「あいつ、俺たちが向かう先にちょこちょこ現れては、ノアールに誘いをかけてきて面倒でな、この間、ロージイの家に行っただろう? あの時もしつこく追いかけて来たから、あの抜け道を使って撒いてきたんだ」
この間、ロージイの家に行ったとき、アコダ達も抜け道から出て来て驚いた。あれは執拗に迫る彼女から逃げて来ていたらしい。
「ふたりで行かせて大丈夫だったかしら?」
「大丈夫だろう。中にはカルロッタもいるし。ふたりきりにはならないだろうから」
アコダと応接間に向かうと、ノアールとリョクショウ、カルロッタが向かい合っていた。ノアールの隣の席に、当然の顔をして座っているリョクショウにイラっとしたが、彼らとはテーブルを挟んで向かい側の席に着いていたカルロッタに手招かれる。彼女の隣に腰かけると、私達の後ろにアコダが立った。
「サーラはこっちよ」
「ノアールさま。わらわに聞きたいこととは?」
私が席に着くと、リョクショウは挑戦的な目線を送ってきておきながら、ノアールには媚びるような目を向けていた。
「おまえはいつから竜胆と暮らしていた?」
「母が竜胆さまにわらわを預けた時からですの。その頃は子供だったので、あまり良く覚えていませんわ」
「母親が預けた? 竜胆とお前の母は知り合いか?」
「ブルーノのことを母が口にしたら、竜胆さまがこの子は自分が預かると言っていたような……」
そう言って彼女は、自分の顎に人差し指を当てて首を傾げた。
「そうか。ではそれからはそのブルーノと、竜胆と三人で暮らしてきたんだな?」
「はい。三人家族のように楽しく暮らしてきました。でも、昨年竜胆さまが亡くなられた後は、ブルーノと二人で暮らしていますの」
「あの屋敷だが、竜胆が暮らしていた時と随分、違うんだな」
「お屋敷も大分、傷んできていたので、建て直したのですわ。見事でしょう?」
「確かに素晴らしい建物だった。でも、個人的には前の屋敷の方が良かった。竜胆の温もりが感じられたから」
「そう? 古い物より新しい物の方が良いわ。ジジイの青金さまよりも、ノアールさまの方が数倍素敵」
リョクショウが胸元で両手を組んでノアールを見つめる。竜王を貶めるような発言をした彼女に、殺気立ったのはアコダだった。
「貴様、青金さまに対して無礼だぞ」
「待て。アコダ」
「何が悪いの? オジサンよりも若い人の方が遥かにいいでしょう?」
リョクショウは、きょとんとしていた。アコダの怒りの理由が分からないようだ。カルロッタは、今にも斬り捨てようとしたアコダを止めた。
「アコダ。相手は拙い幼子だ。許してやれ」
「わらわは幼くはない」
カルロッタは考えなしに発言したリョクショウを、頭が足りていない子供のような者と称したのに、彼女にはその嫌味が通じていなかったようだ。二人のやり取りを聞いていたノアールが、ため息をつきながら聞いた。
「リョクショウ。おまえの住んでいる屋敷は誰が建て替えた?」
「石工達よ。皆、わらわの為に何でもしてくれる」
「彼らはこの山の麓の町に住む石工か?」
「そうよ。彼らは仕事が無くて困っていたみたいだから、良かったらわらわの下で働かないかって声をかけたの」
「どこで彼らと会った?」
「この山の麓の町よ。出かけて行った先で会ったわ」
「この山には結界が張られているのに、どうやって外に出た?」
「えっ? 山の裏手の崖に洞窟があって、そこから出入りしていたけど?」
リョクショウは、ノアールの問いに正直にペラペラと喋った。




