24話・石工達はリョクショウの求婚者?
それからも私達は二手に分かれて、山を探っていた。すると何人かの石工に出会うようになった。彼らは孔雀石を掘り起こしていて、そこを見つけて声をかけると逃げ出していくようになった。もしかしたら私達がこの間、出会った石工が何か言っていたのかも知れない。彼らがいなくなった石工かどうか確認して、どうしてこんなことをしているのか聞きたいのに、それも聞き出せないまま一週間ほど経っていた。
そんなある日の事。
森の中から男の人達が、争っているような声が聞こえてきた。近づいてよく見ると、一人の若者に二人の男性が絡んでいるようだ。
「うるせぇな、だからどうした?」
「リョクショウは、そのようなことを望んでいない」
「あんたさ、ブルーノさんだっけ? リョクショウさまのお気に入りだか何だか知らないけど、俺たちの邪魔をするなよ」
「俺たちのすることに邪魔するなら、痛い目に合うぜ」
どこかで聞いたような声音や口調だと思えば、この間ノームのウェデルが止めようとした孔雀石を、無断で持ち去ろうとした石工の二人だった。
「あなた達──」
「おまえ達。まだ反省が足りないようだな?」
私が前に進み出ようとしたのを、カルロッタが引き留め、彼女が前に出た。彼女の声音は低く、普段、私にかけてくれるような優しい声音とは違っていた。凄みを帯びた声だった。その声音に驚いたのか、男たちは怯んでいた。
「な、なんだ。おまえ」
「この間の女?」
「とにかく俺たちの邪魔だけはするなよ」
二人の男はカルロッタを見ると顔色を変えて、後退りした。絡んでいた男に投げ捨てるように言い放つと、慌てて立ち去った。その時にふと、一瞬だけどこかで嗅いだような匂いが鼻を突いたが、すぐに霧散した。
「大丈夫ですか?」
「助けて頂き有難うございました」
「あなたはリョクショウさまのお屋敷で会った?」
「あの時のお客さまでしたか? 何のお構いもなく失礼いたしました」
カルロッタが二人の男に絡まれていた若者に声をかけると、その若者はリョクショウのお屋敷で会った、ブルーノと呼ばれていた男だった。彼は男たちが立ち去った方向を見て安堵した様子を見せた。
「あの男たちは石工か?」
「はい。彼らはこの辺りにある鉱石を根こそぎ掘り起こすので、それは困ると伝えているのですが、なかなか分かってもらえずにいます」
「リョクショウがさせているのではないのか?」
「彼らはリョクショウの求婚者です。何故か彼らはリョクショウが、孔雀石で作った物を差し出せば喜んでくれると思い込んでいるようでして、止めてはいるものの、聞いてくれないのです」
「彼らの名前は分かりますか?」
「はい。先ほどの者達はガリとギャリーで、ゲーナにイリヤ、ポール、ピーター、ペチャ、ペトル、シシ、レヴ、ワシリ、ザウルの12名ですね」
「……!?」
ブルーノがあげた12名の名前は、失踪したと思われている石工の名前と同じだった。
「行方不明とされていた12名の石工は、リョクショウの求婚者だった?」
「ブルーノさんの話だと、石工達は皆、山の中にテントを張って暮らしているようで、石を掘り起こしては、勝手に宝飾品や小物を作ってリョクショウに献上にやってくるらしいの」
「勝手にねぇ」
領主館に帰ってその晩、晩餐の席でブルーノに会い、聞いた話をすると、ノアールは怪訝な顔をした。
「どこで彼らは会ったのだろう? 会ってもいない人物をいきなり見染めるのは難しい」
「ブルーノさんも不思議がっていました。リョクショウさんは目立ちすぎるから、あまり外に出歩かないはずなのにって」
リョクショウは美人だとは思う。それもちょっと異様なぐらいの美しさが感じられた。人外とでもいうような──? リョクショウの家を訪れた時に、アコダは何と言っていた? 確か──。
──おまえさんからは竜胆の気配が感じられる。まさかおまえさん、竜胆を食らったのか。
「そう言えば、リョクショウさんって何者なのでしょう? 伯父さんはリョクショウさんに、竜胆の花の精である竜胆さんを食したのか?って、彼女に聞いていましたよね?」
「ああ。あの女からは竜胆の匂いがしていたからな。同族でないことは確かだ」
「そうなると、花の精ではない他の妖精?」
妖精って共食いしたりするのかしら? 少し、ゾッとした。その恐れのような気持ちが顔に現れていた様で、アコダに言われた。
「安心しろ。妖精たちは共食いしない。もしも、そんなことをしたら妖精界を追われる。妖精にとって妖精界は永遠の楽園のようなものだ。そこから追われることを死ぬほど嫌っている」
安心しろとは言われたが、リョクショウは妖精でないとなると、その本性は? 共に暮らしているブルーノの安否が気になって来た。大丈夫だろうか?




