23話・人魚はプライド高い一族だそうです
「サーラ。その話は母と別れるために、父がついた嘘かも知れないってダニールが言っていただろう?」
「ノアールさん。あの時、見せてもらった青い鳥は、石で作られているのに、まるで生きているようで精巧だったじゃないですか。この地方に住む石工達は「伝説の石工」の話を聞いて育っているのでしょう? あれぐらいの腕前を持っていた人なら、自分の力を試してみたいって思うのは当然じゃないかと思うのです」
「ほほう。生きているような青い鳥ですと?」
ロージイが、ダニールの父が作った鳥に興味を示したようだ。
「一度、その作品を見てみたいものじゃ」
「それは王都のパン屋さんにあって」
「では、王都に伺った時にこっそり覗かせて……」
「旦那さま。いけませんよ。王都なんて人間の多い場所じゃないですか。人間に見つかったら何をされるか分かりません」
ロージイが王都にちょっくら行って見てこようと言い出したら、チムがきっと睨みつけた。余計なことを言ってしまったかもしれない。
「ごめんなさい。私が変なことを言ったから」
チムは人間のことを良く思っていないようだった。私も一応、人間よりなのでそういう発言を聞くと申し訳なくなる。
「あの、サーラさまは関係ありませんよ。あなたさまは今、人の姿はしておられるけど、人魚の姫なのでしょう?」
「いえ、お姫さまだなんて。ただ、人魚の血を引くだけです」
「まあ、なんて謙虚なお方でしょう」
正直に話しただけなのに、チムは涙ぐんでいた。感激屋さんなのかな?
「そうじゃろう? わしなんて目の前に現れても嫌な顔一つされなかったぞ」
「ロージイさんも、チムさんも大変可愛らしいと思いますが?」
「可愛らしい? 汚らわしいではなくて?」
「えっ? そんな酷いことを思ったこともないです」
どういうことなのか分からない。そこには私の知らない事情が隠されているようだ。アコダがチムに言った。
「チム。この子は何も知らない。今まで人間として、貴族に使用人として仕えてきた。人魚の暮らしを知らない」
「使用人として……? 大層、苦労されてきたのですね」
「いえ、そんなでもないです。伯父さん、人魚とノームさん達の間に何があるの?」
「そうだな。この場にジグルドが要れば話したと思うが、人魚は神代から続く一族で、我々竜人や妖精たちよりも立場が尊いとされている。そのせいで人魚はプライド高く、自分達の一族以外をどこか下に見ている部分がある」
「もしかして私のお母さんも、お父さんを見下していた?」
「それはない。おまえのお父さんたちはお互いを同等に見ていて、他の種族に対しても親切だった」
アコダの話を聞いて安心した。私の実母は憧れていたフィロメイラさまだった。フィロメイラといる父は幸せそうだったから、実は上下関係にあったとしたら嫌な気がした。それにしても人魚だからどうしたというのだろう? その人魚至上主義が納得いかなかった。
「人魚が神代から続く一族と言っても、そんなに大したことないのにね。海の中の世界しか知らないのでしょうし。私から見れば海の中で閉鎖的に暮している人魚よりも、想像が豊かで、何かを生み出す特殊な能力があるノームさん達の方が100倍も魅力的だわ」
「ありがとう。嬢ちゃん」
「ありがとうございます。人魚の姫にそう言われたなら、私達の先祖たちもどんなに喜んだでしょう」
「そんな、大げさですよ」
「それが大げさでもないんだよな。ノーム達は人魚に嫌われたことで妖精界を追われたからな」
「そんな。酷い。伯父さん、誰がそんなことを?」
「人魚達を束ねる王だ。海王が彼らを醜いと馬鹿にした」
「何て失礼な。そのようなこと気にしなくていいですよ」
「お優しい。あなたは人魚の姫なのに、心根も優しいのですね」
そうだと言ってチムが、懐から何かを差し出してきた。
「これはオーロラの櫛です。これで髪をすくと髪の毛が艶々になりますよ。差し上げます」
「いいの? 頂いても?」
「お礼です」
「良かったな」
アコダと、カルロッタが微笑んでいた。もしも、この場に父や母がいたのならこんな風に自分を見てくれていたかも知れない。そう思うと天の国に行ってしまった父ジグルドや、母のフィロメイラを思い切なくなった。




