7話・あれからお屋敷はどうなったの?
「まずは食事でもどうだい?」
「そうね。お腹すいた」
私の家は玄関を入るとすぐに土間になっていて、そこには石造りの竈がある。竈の脇には生活用水として水を溜めておく大甕があった。私はボーモン子爵家で暮らすようになってからも、休日にはこの家を訪れ清掃をしていた。
土間の奥には部屋が二部屋あり、昔はその一つを祖母が使い、もう一つの部屋は父と私が使っていた。この周辺の家はみな、似たような構造をしている。
二人が部屋から出た後、着替えて土間に向かえば、丸いテーブルの上に焼き立てのパンと、魚と海藻のスープがあった。
「美味そうだ。あたしもご相伴に預かろうかね」
「……? 小母さんが作ってくれたんじゃないの?」
「いや。このお方が作ってくれたのさ」
「えっ?」
小母さんはノアールと、すでに席についていた。私は空いていたノアールの隣の席に腰を下ろしかけて、小母さんの言葉に耳を疑った。
──これをノアールさんが?
この魚と海藻のスープは、この辺りではよく知られた地元料理だ。この下町とは無縁に思えるお貴族様が自分で料理したなんて信じられなかった。
「料理は趣味のようなものだ。まあ、勝手ながらこの家に上がり込んだ、そのお礼だ」
「このお人はね、あんたを家まで運んでくれた後、ベッドに付き添ってくれていたよ。もちろん、その場にふたりだけ残してはいけないから、あたしも付きあったよ」
彼は気まずそうに言う。気を失った私を無人の家に置いていくのも気が引けて留まってくれたらしい。シイラ小母さんが説明してくれた。きっと私の話を聞いたこともあり、彼としては放ってはおけなくなったのかも知れなかった。
「ノアールさん。ありがとう。食事まで作って頂いてすみません」
「気にしないでくれ。こちらのご婦人まで突き合わせてしまって逆に申し訳なかった」
「いや、あたしはこの子とは子供のころから付き合いがあるしね。放ってはおけなかったから。それにあたしじゃ、大きくなったこの子を抱き上げてこの家まで連れてくるわけにいかなかったし」
「ノアールさん、小母さん。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「いや……。迷惑ってほどでもない。こちらこそ勝手に済まなかった」
「いえいえ、ノアールさんは全然悪くないです。わたしが……」
「ふたりとも謝るのはそれぐらいにして、まずはこの美味しそうなスープが冷めないうちに食べないかい?」
「はい」
二人で謝りあうのを見ていた小母さんは、キリがないと言いながら食事を勧めた。その言葉に促されて口にしたパンは柔らかくふんわりしていた。魚と海藻のスープはあっさりしたなかにも、魚貝の風味が感じられた。
「ん~、うまっ」
「美味しい~」
「口に合ったようで何よりだ」
小母さんと顔を見合わせてノアールを見れば、彼ははにかむような笑みを浮かべていた。そんな表情もするらしい。私にとって彼は完璧な大人の男性に見えていたから、予想外と言うか、良い意味での意外性を感じた。
「そういえば、あれからお屋敷の方はどうなったの?」
ボーモン子爵の屋敷が火事にあったのは見て分かっている。母の安否が気がかりだった。小母さんがその後のことを教えてくれた。
「消火活動に加わった旦那からの話だと、お屋敷はほぼ全焼したらしい。使用人達は、いち早く逃げてみな無事だったって」
「良かった。じゃあ、母さんは無事なのね?」
シイラ小母さんの言葉に私は期待を持った。それなら母も助かったに違いないと。私の問いにシイラ小母さんは顔を曇らせた。
〇ノアールは、気を失ったサーラを家まで運ぶくらいの
もしかしたら意外と力持ち?




