20話・サーラがいない
「サーラがいない?!」
「落ち着け。アコダ」
昼間サーラの家を訪ねたノアール達は、無人の家を目にして不安が過った。約束はしていなかったが、昨日、彼女の母親が憲兵に連れられて行ったこともあり、彼女の身に何か起きたのではないかと思ったのだ。ノアールは事情を聞くべく、隣家のドアを叩いた。するとドアからシイラが顔を覗かせた。
「あら、ノアールさん」
「シイラさん。サーラがどこへ行ったか分かりませんか?」
「いないのかい?」
「はい」
「じゃあ、もしかしたらあの子、留置所へ母親の様子を見に行ったのかも」
サーラを送ってきた時に、母親が憲兵と揉めていたのをノアール達は見ていた。お互いに顔を見合わせる。サーラなら確かに、いくら不仲の母親と言えども、心配して様子を見に行きそうだ。シイラはノアールの後ろにいるアコダに目を止めた。
「そっちの兄さんは誰だい? 昨日も一緒にいたようだけど? ノアールさんのお兄さんかい?」
「いえ。彼は……」
「私はサーラの伯父です。いつもサーラがお世話になってありがとうございます」
「サーラちゃんのアコダ?」
「はい。サーラの父、ジグルドの兄アコダです」
「おや、そうかい。ここいらの者は皆、ジグルドさんにはお世話になったものだよ」
アコダが前に進み出て正体を明かすと、シイラは目を丸くした。そして家の外へ出て来た。ノアールは聞いた。
「昨日の騒ぎは何だったのですか? 詳しいことはよく分からなくて」
「ボーモン子爵のお屋敷が火事になったのは知っているかい? その放火犯として密告があったとかで、憲兵がクラリーを容疑者として捕まえに来たのさ」
「それでクラリーさんは留置所へ?」
「そうだよ」
シイラが話をしているなか、外での会話が聞こえていた様で、裏の家の小母さんが顔を覗かせた。
「サーラちゃんなら、ボーモン子爵が迎えに来て出かけて行ったよ」
「ボーモン子爵が?」
「えっ? あんた、それは確かかい? 子爵は殺されたんじゃないのかい?」
裏の小母さんの言葉に、ノアールとシイラは驚いた。クラリーはボーモン子爵の屋敷に放火したとして、憲兵に連れられて行ったが、ボーモン子爵やその娘の姿が見えないことから、その殺害容疑も兼ねていたように思えた。
そのボーモン子爵が生きていたと聞き、シイラは疑わしそうに裏の小母さんを見た。
「ボーモン子爵が死んだってのは、デマだったんじゃないの? あたしは子爵と一緒にサーラちゃんが馬車に乗って出かけて行くのを見たよ」
裏の小母さんは、ボーモン子爵とサーラが、二人で馬車に乗るのをハッキリ見たと言った。
「本当に子爵さまだったの?」
「嘘は言わないよ。あたしは目が良いからね、二メートル先の物まではっきり見えるよ。あの様子だと恐らく、クラリーを釈放してもらう為に留置所に向かったと思うね」
シイラはまだ疑っていた。自分の目で見てないだけに信じがたいのだろう。裏の小母さんは間違いないと言い切った。死んだのでは?と、思われていた子爵がサーラの元を訪ねて来たと聞き、不可解に思いながらも、ノアールは兎に角、留置所へと向かうことにした。




