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21話・気になる話


 留置所では、ボーモン子爵本人が訪ねて来て、クラリーは無罪放免となったと聞かされた。ボーモン子爵の屋敷を放火したのは、クラリーだという密書は、何者かの悪戯だったようで、子爵本人からその件については不問にすると言われた。との事だった。一度は死んでいるのではないかと思われていた子爵が姿を見せて、しかもクラリー夫人の釈放を願ったことで話はついたらしい。



「ノアール。俺はボーモン子爵とやらには会っていないが、サーラは子爵と親しい仲だったのか?」


「いや。彼女から聞いた話によると、単なる雇用主とその使用人の仲で特に親しい仲ではなかったようだ。ただ──」


「ただ?」


「彼女の母親はボーモン子爵の娘の乳母であり、サーラはその娘だから」



  アコダは、サーラの交友関係は良く知らない。ボーモン子爵がサーラを訊ねて来て、一緒に馬車に乗り、拘置所まで来るくらいなのだから気にかけているように思える。一使用人であるサーラを気に掛ける理由が気になったようだ。



「ああ、例の献身的な乳母か。社交界で有名だよな。確か産後直ぐに亡くなった子爵夫人に代わり、残されたお嬢さまを養育してきたと言う? あれがそうなのか? 噂とは全く宛にならないな」


「その通りだ」



 二人は社交界の噂にも通じていた。その為、ボーモン子爵家の乳母は評判通りの良い人物なのだろうというのが二人の見解だったが、当の本人を見てノアールは期待外れでがっかりしたし、たった今、真相を知ったアコダも信じられない顔をした。



「クラリー夫人は実家のある下町では人気がないな? 悪評しか聞かなかったぞ。 ジグルドの奴、何でそのような女と結婚したんだか」



 見る目なさすぎるぞ。と、アコダは呟いた。



「クラリー夫人は、若い頃から問題ばかり起こし、異性関係でかなり揉めていた様だ。同性にも激しく嫌われていたと聞く」


「何を仕出かしていた?」


「サーラの家の隣のシイラ小母さん情報だが、クラリー夫人は男遊びが盛んで、既婚者だろうが、相手が金持ちで見た目が良いと言い寄って貢がせてきたらしい。性格も悪いから相手の女をよく刺激しては怒らせ、暴力沙汰になってもケロリとしていたそうだ。男に愛されない地味な女が悪いのだと言って」


「何だ、それ。最低だな。男も何でそんな女に引っ掛かる?」


「何故だろうな? ボーモン子爵も恐らくあの女にコロリと引っ掛かった口だろう。妻を亡くしてから、乳母であるあの女に子爵夫人の部屋を与えていたようだ」


「子爵も餌食になっていたか」



 アコダの言い方にノアールがくすりと笑いを漏らし、聞いた。



「そう言えばアコダはさっき、留置所の見張りの者と話をしていただろう? 何か収穫があったか?」


「収穫になるかどうか分からないが気になる話は聞いた」


「気になる話?」


「クラリー夫人が牢から出た後、その前が異様に濡れていたらしい」


「濡れていた?」


「何かバケツ一杯分の水をぶちまけた様な感じだったそうだ」


「清掃の者が誤ってバケツの水をひっくり返したとか?」


「俺もそう思ったが、その水は潮のような匂いがしたと言っていた」


「潮?」


「不思議なこともあるものだよな。それと血痕のようなものが微かに残されていたらしいが、クラリー夫人の体には怪我をしたような形跡もなかったそうだ」



 アコダはそれだけ言うと、先に立って歩き出した。ノアールはその後を追う。



「なあ、ノアール。これにはセイレーンが関係していると思わないか?」


「まさか彼が?」

 


 二人の脳裏にはある人物が浮かんでいた。彼らはこの国の頂点に立つ者に命じられてこの地に来たが、まさかこのような形で彼と出会うとは思わなかった。



「何か分かったのか? アコダ」


「ノアール。あいつの家族について何か聞いているか?」


「いや。興味がないから気にもしなかった」



 アコダに問えば、逆に聞き返されてノアールは首を振った。



「放蕩王子の息子には母と姉がいるが、その二人が10年前に突然、姿を消した。それに半狂乱になっていたようだ」


「10年前?」


「ああ。それから必死に捜していたようだが、何だか気にならないか? 俺はこの辺りが怪しい気がする」



 アコダの発言に思うところがあったのか、ノアールが黙り込む。



「一度、サーラの家に戻ってみるか? 戻ってきているかもしれないし」

「そうだな」



 アコダと連れ立ってサーラの家へと向かったノアールだったが、その日サーラは遅くまで待ってみても帰ってくることはなかった。



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