54話・お茶会終了後
「彼とその彼女の結婚式が終わった後、あてどもなく彷徨い歩いて、気が付けば彼と出会った浜辺に来ていて……死のうと思いました」
私の告白を陛下とカルロッタは神妙な顔つきで聞いていた。公爵は黙っていた。
「そこにノアールが通りかかって、自殺しようとした私を止めてくれたのです。その晩は月夜で、わたしの流した涙が真珠に変わったそうで、それを見てノアールはわたしが人魚の血をひくのではないかと思ったそうです」
「……そうだったの」
私の話を聞き終えた陛下やカルロッタは、ようやく納得したような顔をしていた。カルロッタは、ノアールに深々と頭を下げた。
「ノアールさま。勘違いして申し訳ありませんでした。サーラの命を救って頂き感謝します」
「サーラちゃん。自殺なんて馬鹿なことを考えちゃ駄目よ」
「そうですね。今にして思えば、あの頃の私はどうかしていました。彼のことしか見えていなかったので、彼に捨てられたらお終いのような気がして……。でもノアールに出会って、自分はちっぽけな世界で生きていたことに気付かされました」
隣の席のノアールが、膝の上に乗せた私の手に自分の手を載せてきた。大きくて包まれるような感じに安心する。私はもう一人じゃない。ノアールを見れば、琥珀色の瞳が見つめ返してきた。
「今はこの出会いに感謝しています。この世の中は自分が思っていたよりも広くて、不思議に満ちている世界なのだと知ることもできましたし、まさか自分が人魚の血を引くなんて思いもしませんでしたけど」
こうして生きていて良かったと言えば、この場にいる誰もが私の言葉に頷き返してくれた。竜王陛下はノアールに言った。
「おまえの姫を守れよ」
「当然だ」
父子の会話は短かった。彼女を連れて来た息子への父親なりの激励のようだ。それからしばらく他愛もない会話が続き、お茶会は終了した。行くときは相手に失礼がないようにと、ドキドキしていた私も、帰る頃にはノアールの両親に親しみを感じていた。
「ノアールのお母さまが陛下だと知った時には驚いたけど、気さくな人で安心したわ」
「母さんより、親父が怖くなかったか? 親父は無愛想だからな」
「気にならなかったわ。お二人は仲が良いのね」
「竜人は一途だからな」
ノアールと二人で廊下を歩いていると、反対側から自分達と同じ年頃の男女が通りかかった。二人の後ろには侍女と近衛兵がついていることから、身分の高い相手だと知れた。
二人とも王家に多い、金髪と青い目をしている。もしかして──と、思う間もなくノアールが廊下の端に移動し、頭を下げる。そして小声で囁いてきた。
「ウベルト殿下と、アドリーヌ殿下だ」
ノアールに合わせて、二人が通り過ぎるのを待っていると、二人は立ち止まった。
「なんだ。ノアール。来ていたのか」
「お久しぶりですね。アイオライト公爵子息」
面白くなさそうな顔で声をかけて来たウベルト王子とは対照的に、アドリーヌ王女は笑顔を向けてきた。




