52話・出来ることならば永遠に
「サーラちゃんは立派ね。両親が側にいなくとも自立して一人で立っている」
陛下は私の亡くなった両親のことを知っているようだった。アコダ伯父さんから聞いているのかも知れない。
「いえ、そんなことはないです。私って結構、寂しがり屋だし、甘えん坊なところがあって。ここに来る前はボーモン子爵領の港町に住んでいて、そこでは隣近所に住む小父さん、小母さんの助けを借りて生活していましたし、困っていると皆が助けてくれました。皆、本当の家族のように仲が良かったのですよ」
「そう。素敵なところね」
「はい。人情味あふれる場所でした」
話しているうちにボーモン子爵領の港町に住む小父さん、小母さん達の顔が浮かんできて、会いたくなってきた。そろそろ休暇を貰ったら、皆に会いに行くのも良いかもしれない。元気にしていますよと現状報告する為に。
「ずっとそちらで暮らしていたの?」
「いいえ。そこで暮らしていたのは、わたしが父を亡くして8歳までの頃です。父を亡くしてからは、ボーモン子爵家のお屋敷に住み込みで給仕係をしていました」
「どうしてそちらで働くことに?」
「母が──、あ、いえ。母親だと思っていた人がボーモン子爵の娘さまの乳母を務めていたご縁で、引き取られました」
「そう。なかなか大変だったのでしょうね」
てっきり自分の事情は、陛下には伝わっているものと思っていたのに、詳しい話は知らないようだ。そう言えばこのお茶会が始まって早々、陛下からノアールがアコダの姪が一緒に暮らすことになったとしか言わなかったと、愚痴られた気がする。だから詳細が知りたいのかも知れなかった。
「ボーモン子爵家と言えば、確か月華真珠で有名な?」
「……はい」
月華真珠のことを持ち出されて、一瞬ちくりと胸が痛んだ。あれは悲しい産物。二度と生み出されたくない、儚くも美しすぎる物だ。ノアールのクリュサオルとしての報告で、真珠がどういった経緯で生まれた物か知ったのだろう。陛下は言った。
「あれはとても綺麗で幻想的だけど、誰かの涙で生み出された物ならもう二度と生み出させてはならないわね」
「はい。ぜひ、そうして頂けたらと思います」
「肝に銘じるわ」
出来ることなら永遠に、その秘密は隠されて欲しいくらいだ。陛下は心得たかのようにもう二度と作らせるようなことはしないと言ってくれた。この国の頂点に立つお方からの承認は得た。これでもうあの真珠欲しさに、人魚が捕らえられて泣かされるようなことは起きないだろう。天に昇ったチイちゃんたちの魂が、これで報われたような気がした。
「あら。あなたの胸元と耳にも月華真珠?」
「これはサーラの涙で作った一点物だ」
陛下が私のイヤリングや胸元に下がっているペンダントに気が付くと、横からノアールが口を挟んだ。恐らくボーモン子爵が捕らえた人魚の涙で出来た物ではないと言いたかったのだろうが、陛下は別の意味に受け取ったようだ。
「別に取らないわよ」
「どうだか」
さらりと陛下が言えば、ノアールは疑うように見る。母子の間が不穏になってきた気がして公爵を伺えば、陛下の隣で公爵は平然とお茶を口にしていた。




