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51話・二人のおかげで私は存在している



「親父には脅威を感じていたからな」

「でも、5歳でようやく人の姿になることが出来て人前には出られるようになったけど、あの幼体姿も可愛すぎて少しだけ残念な気持ちにもなるわ」



 竜人の王である父親には、幼い頃から只者ではない存在だと認識していたからだとノアールが言い訳のように言った。

 ノアールは卵で産まれ、父親であるアイオライト公爵が孵化したと聞いていた。母親である女王陛下は戴冠してから王宮入りしているはず。ノアール達はノースデン山で暮らし、母親の女王陛下と別居状態だったはずなのに、女王陛下はその成長を共に見て来たかのように懐かしむ。公爵は意外と筆まめな人なのかもしれない。



「シアさまは、ノアールの成長を公爵さまのお手紙で知らされていたのですか?」

「いいえ。直接見ていたから」

「……? お立場もあってノアール達とは、共には暮らせていなかったのですよね?」

「お互い住む場所が違うだけで、いつも行き来していたわよ」



 頭に疑問符が浮かぶ私に、ノアールがヒントをくれた。



「ノースデン山で会った時に見ただろう? 親父はこう見えて母上に対し、独占欲が強い」


 その一言で察した。魔術だ。確かノースデン山に現れた時も急で、二人で姿を見せて去って行ったのを目撃している。


「転移術ね?」


「そうそう。ノースデン山の宮殿と、王宮に住む母上の寝室の扉が転移術で繋がっていた。しかも誤って竜体姿の俺が王宮側に出てしまう事のないように、俺が勝手に扉に触れると弾かれるような術まで施されていた」


「あの頃のお前は何でも興味があって、勝手に触れて回るようになっていたからな」


 以前、ロージイ達も言っていたが、幼い頃のノアールは好奇心が強かったらしい。確かに竜体姿の彼が、もしも王宮に迷い出たならば、竜の子だと王宮の者達は未知の存在に恐れおののき、捕縛して始末しようとしたかもしれない。そこには子育てに翻弄された公爵の見えざる苦労が偲ばれた。



「人の姿を取れるようになってからも、警戒はしばらく必要だった」

「可愛かったけれどね」



 深くため息を漏らした公爵の横で、陛下はフフッフと微笑む。相変わらず仲のよさそうなお二人だ。その両親を前にしてノアールは居心地悪そうな顔をしているけども。

 私がじっと二人の様子を見ていることに気が付いた陛下が聞いてきた。


「サーラちゃん。どうかした?」

「いえ。こんなにも素敵なご両親がいるノアールが羨ましいなと思いまして」


 心に思ったまま口にしたのだけど、それを聞いた陛下は顔を曇らせた。それを見て気遣わせてしまったような気がした。



「サーラちゃんのご両親は……」

「ああ。でも、別にたいした意味はないのです。わたしにはアコダ伯父さんもいますし、カルロッタさんもいますから──」


 だから寂しいとかではなくて。と、言いかけたら、後ろから両手が回って来て抱きしめられていた。陛下の後ろにいたはずのカルロッタが、いつの間にかこちら側にいて背後から抱きしめてくれていた。カルロッタさんの腕の中は、温かかった。



「サーラちゃんは、うちの娘も同然よ」

「カルロッタさん」

「わたしもカルロッタさんをお母さんのように思っています。アコダ伯父さんも」


 カルロッタさんが、私の言葉に頷きながら聞いてくる。


「でも、私を生み育ててくれた両親のことも忘れたくはないです。たとえ住む世界が違っても、二人のおかげで私は存在しているから」



 私の言葉に陛下が息をのんだ気がした。同情されただろうか? カルロッタさんは微笑んで腕を放した。私の両親は、ボーモン子爵領にある嘆きの塔の火事で亡くなっている。今頃、天の国からこちらを見て陛下とお茶会の様子を見てハラハラしているかもしれない。それとも光栄なことだと見守っていてくれるだろうか? そう考えたら何だか楽しく思えてきた。


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