50話・心臓に悪いです
「大丈夫か? サーラ?」
「だ、大丈夫」
ノアールは、陛下をきっと睨みつけた。
「母さん」
「なあに?」
「あまりサーラを揶揄わないでくれ」
「はい、はい」
真剣に言うノアールを、陛下は軽く受け流しながらも謝罪してきた。
「息子の彼女だから気が急いてしまったわ。ごめんなさい。サーラちゃん」
「いえ。驚いただけですから……」
まだ自分達は付き合い始めたばかり。先のことを考えていなかっただけに、彼の母親からそんなことを聞かれて正直、びっくりした。そのようなことを聞かれるとは思いもしなかったから。
「サーラちゃんはいい子ね。気に入ったわ。また来てくれるかしら?」
「光栄です」
「母さんっ」
ノアールの母親である陛下にそう言われて、嬉しくないことはない。素直に受け止めて答えると、隣で非難するような声が上がった。ノアールは心配しているようだ。
「ノアール。分かっているわ。無理には呼び出さないわよ。わたくしはただ、サーラちゃんが気に入ったから、これからも何度か会ってお話がしたいだけよ」
ノアールは私を気遣うように見た。それに頷くと「本人の気持ち次第だからな」と、念押しするように言った。
「ノアールは心配性ね。でも、それだけサーラちゃんを大事に思っているということね」
「勿論、真剣に交際している」
ノアールの言葉を聞き、私はたまらず下を向いた。陛下の後ろに控えている伯母のカルロッタからも注目されて恥ずかしくなったのだ。そこで陛下は弾んだ声を上げた。
「そうなんですって」
頭を上げると、陛下は戸口の方へ目線を向けた。釣られてそちらを見れば、ノアールと同じ色の髪や瞳を持つ凛々しい美丈夫が立っていた。
「親父」
「アイオライト公爵?!」
ノアールと声が被る。驚いた。いつからいたのだろう。この部屋には陛下と伯母のカルロッタと、ノアールと私の四人だけしかいなかったはずなのに──。恐らく転移魔法で移動してきたのだと思うけど、心臓に悪い。
「お久しぶりです。アイオライト公爵さま。この間はノースデン山の件でお世話になりました」
「大したことではない。息災か?」
「はい」
アイオライト公爵とは、ノースデン山の行方不明の石工の件で出会った以来だ。そこで知った伝説の石工が、実は妖精のノーム達の事であり、そのノーム達は恩義を感じてアイオライト公爵の為に色々と作り上げていると聞いていた。
あの時は女王陛下と一緒に現れて、すぐに二人で去られたので、大したお礼も言えずにいたことを思い出した。立ち上がってお礼を言うと、公爵はうむと頷き、聞き返してきた。そして陛下の隣の席に自然と腰を下ろした。
「あの子が成人したと思ったら、彼女をつくるなんてね」
「あの頃はビイビイ鳴いて、大人の関心を向けることぐらいしか出来なかったからな」
二人は感慨深いようにノアールを見て言う。ノアールは悪かったなと呟く。
「いつの頃の話をしているんだよ」
「おまえの幼い頃だ」
「竜の幼体で可愛かったわ。ピイピイ鳴いてわたくしの後を追ってきて……」
「我が抱き上げるとビイビイ大泣きしおって」
「そうよね。不思議だったわよね? 父親のあなたにはなかなか懐かなかったのに、わたくしには真っ先に飛んできたし、ピイピイ鳴いて可愛らしかった」
幼い頃のノアールは母親を慕っていて、父親であるアイオライト公爵にはあまり懐かなかったようだ。




