49話・第四王子のその後
「第四王子さまはある平民女性と恋仲になって、王籍離脱を望み王位継承権を手放して平民として暮らしていると聞きますがもしかして──?」
「サーラちゃんの考えている通りよ。バードはホリーと恋仲になって王家という柵から解放されたがった。ホリーも王の子だと認められるのを嫌がっていたし、二人で妖精界に時々顔を出しながら、気ままな放浪の旅に出たわ」
「ホリーさんは妖精界で辛い目にあったのですよね? そこへ行ったりするのですか?」
確か話の流れでは、王子が自分と入れ違いで、妖精界で暮らしているホリーが辛い目に合わされていると知り、迎えに行って助けた様なことを言っていたような気がするのに? と、聞けば陛下は言った。
「ホリーと入れ替えられたバードは、妖精の女王の息子だったそうなの。女王が男の子はいらないなどといって、人間の女の子と取り換えさせたそうよ」
フルバードが助けに行った頃には、ホリーはガリガリに痩せていたそうでねと陛下は言った。
取り換え子というのは、妖精が悪戯で人間の赤子と妖精の赤子を入れ替えることだ。それも妖精側の一方的な気まぐれで起こる。妖精の女王が産んだ子フルバードと、王妃が産んだ女の子ホリーが入れ替えられたことで、双方に不幸が起きた。
女の子が欲しかった妖精の女王は、ホリーが物心ついた頃には、あまり可愛くない等と言い養育を放置した。その為、ホリーは常にお腹を空かせていて、他の妖精たちが食い散らかした果実を齧って生き伸びていたらしい。
フルバードの方は、母親の王妃には嫌われていた。王妃は自分が産んだ女の子が、乳母が目を離した隙に男の子と入れ替わったと知り、発狂寸前だったと言う。見た目も夫や自分に似ていない。明らかに他人の子だ。と、騒ぎ立てる王妃を宥めたのが陛下のようで、ごく稀に王家にはピンクブロンドの髪に青い目をした者が生まれると言われたことで、夫が自分の不貞を疑っているのだと王妃は思ったようだ。
「妖精の女王とは我儘なのですね?」
「そうね。ノーム達を見かけが可愛くないなどといって追放するくらいだから」
ロージイ達が住処を追われたのは、妖精の女王のせいだったらしい。どうも可愛くない発言をどこかで聞いた気がすると思ったら、元凶だったのかと思った。しかし、腹立たしい事この上ない。妖精の女王の気分一つで、周囲の者達が振り回されたなんて。
「でも、もう取り違え子は行われないはずよ。バードが禁じたから」
「フルバードさまが?」
「妖精の女王が亡くなってバードが後を継いだのよ。いま彼が妖精王なの。だからホリーはその伴侶として、もう妖精たちに虐められることはないわ」
今は見下していた側がぺこぺこしているのじゃないかしら? と、陛下は笑った。
「それに合わせてバードは、ロージイ達の追放処分を取り消したそうよ。でも、ロージイ達はノースデン山が気に入っているから、何かない限りは妖精界に戻るつもりはないって言っていたわ。交流を断っていた者達から色々と連絡は来たそうだけど、復縁要請が煩わしいのですって。よっぽどロージイ達の技術が惜しいのね」
女王の命で妖精界を追われ住む所を追われて困っていた彼らに、援助することもなく、散々無視続けた相手が、新しい妖精王が彼らの追放処分を取り消したと知り、嬉々として連絡してくるらしい。ロージイ達にはそれが掌返しのように思われて良い気がしないらしかった。
そこまで話していた女王は、カップを持ち上げて口にした。その仕草一つが絵になっている。私もカップを持ち上げて中身を口にした時だった。陛下がそっと微笑みかけてくる。
「それであなた達はいつ結婚するの?」
思わずその一言に、吹き出すところだった。慌てて飲み込んだせいで咽てしまう。ゴホゴホと咳き込む私の背をノアールが摩ってくる。




