48話・この世には存在していない?
「それからのわたくしはあなた方が知っている通りよ」
テラス席についた我らが女王陛下は、優雅に紅茶を飲みほした。席を立ってお代わりを注ごうとした私の手を陛下が止める。
「あなたはお客さまなのだから座っていて」
護衛官であるカルロッタがすでにポットを手に取って、お代わりの紅茶を入れてくれた。
「ありがとうございます。カルロッタさん」
「どういたしまして」
陛下の話は普段、庶民の私達が日常生活で会話しているものとは明らかに違っていた。そこには陛下の隠された複雑な事情もあり、気軽に話せるものではなかった。だから話す前に口止めされたのだろう。
現在陛下は、兄王子の子であるウベルト王子と、アドリーヌ王女を養子に迎えている。その彼らが兄王子の子ではなく、先王の子だったと知り驚いた。
「あの今更ですが……、シアさま。やはりこのような重要事項、わたしのような者が聞いてはいけなかったのでは?」
「あら、あなただから話したのに。怖気づいた?」
「いえ。そう言う訳では……」
私が思っていたよりも王家には秘密が多すぎた。誰かに口外する気はないが、事情を知ってしまうと、次回から見る目が変わりそうで怖い。とくにこの場にいない方々とか。そんな私を見て取ったのか、陛下は穏やかに聞いてきた。
「あなたは誰にも話さないのでしょう?」
「勿論です」
「わたくしもあなただから話したのよ。他に聞きたいことは?」
「王妃さまはどうなったのですか? 陛下が戴冠されてから一切、姿を見せていないと聞きますが?」
陛下ににっこり微笑まれ、好奇心に抗えない私は聞いてしまった。
「わたくしが戴冠してから初めにしたことは、王妃の断罪だったの。あのお方は王妃となってから、実家の力もあり好き放題やり過ぎた。実はね、陛下に媚薬を持ったのもあのお方で、既成事実を作って妊娠して側妃になろうとしたのを、前王妃付きの女官に察知されて阻まれてしまったことで計画が台無しになり、わたくしの母を一方的に嫉んでいたらしいの。母が亡くなると実家の力で王妃になれたものの、今度は子供が出来て野心が生まれた。このままいけば兄のネスワルドが王となると危惧して、遅効性の毒を盛り続け、婚約者にも毒を盛り、命を奪った。そのことで彼女には責任を取ってもらったわ。彼女の扱ってきたものでね」
「つまりこの世には……?」
「表向きには北の修道院で亡き夫を偲び、弔っているとされているわ」
王家の闇に触れた気がして少し、背中がぞくっとした。現在王妃の実家バジリスク家は伯爵家に降格している。領地も半分ほど王家に没収されたとノアールから聞いていた。その要因を彼は詳しく話さなかったが、このことが原因だったのかも知れなかった。




