46話・わたくしはあなたにとって何ですか?
「余が馬鹿だった」
「そうですね」
それに関しては、アーシアは同情しなかった。男と女の関係については、親娘とはいえ、口を出すべきことではないだろう。もしも、母親のソフィアがこの場にいたら、父に対して何と言っただろうと思う。想像もつかなかった。
「バジリスク家との繋がりを望むのならば、フルバードを次期王に指名しても宜しいのでは?」
「本気で言っているのか?」
父は弱弱しい風体でも、眼光は鋭く見返してきた。
「あれは人外だ。王にはなれない」
「彼と入れ替えられた子供が戻ってきたら?」
父もフルバードが、チェンジリングで入れ替えられた子だと知っていたようだ。アーシアの問いに父は横に首を振った。
「無駄だ。王位に就くための教育もされていなかった者に、軽々しく王位の座を渡すことなど出来ない」
父は王の顔をして言った。
「時は来た。おまえが次の王となれ」
「わたくしには夫も子供もいますよ」
「夫は王配に……。子供?」
「あなたの孫です。ノアールと言います」
「そうか。……子がいたのか」
アーシアの告白に王は、今知ったような顔をした。その態度でアーシアは、父は自分にいかに興味がないのかを悟った。王はアーシアにとって父親ではなかった。父は他の家族に目を向けていた。
「いま、バジリスク当主は病気に見舞われて明日をも知れない命と聞く。王妃は父親の言いなりだったから何もできない。次期バジリスク当主となる兄とは仲が悪いと聞いているからな。おまえの好きにすればいい」
王はアーシアに、今後のことはおまえに任せると言った。それがアーシアには気に障った。
「……酷いお方ですね」
ぽつりと呟いたアーシアに、王は訝る様子を見せた。
「わたくしは、あなたにとって何ですか? わたくしは生まれてすぐに生贄となることが決められた。あなたは一度もわたくしに会いに来なかった。そればかりか都合よくわたくしの存在を忘れていたではないですか」
「おまえのことを忘れてなどいない」
「存在は知っていても関心はなかった。今更です。ウィルマー殿下が亡くなって、兄上も先がないと知ったあなたは、アルテミシアと入れ替わりで王宮に戻ってきたわたくしに目を付けた」
アーシアは、ほくそ笑んだ。
「わたくしは知っているのですよ。あなたの心がいま、どこにあるかを」
「アーシア……」
「ミラ夫人。元伯爵夫人で離縁された後、あなたが市街に囲っておられますよね? 現在1歳になるお子さんがいる。名前はウベルト」
「……!」
「ああ。言い訳は結構です」
今まで朗らかな様子を見せていたアーシアの毅然とした態度に、王は目を見張る。どうしてそれを知っているのかと目を剥いていた。愛人のことを父は隠してきた。宰相にも話していないことをアーシアが何故、知っているのかと驚きの顔をしていた。
アーシアにそのことを教えてくれたのは、フルバードだった。フルバードの周囲にいる妖精たちや、小鳥たちが毎日、自分達が目や耳にした情報を運んでくる。
この間の邂逅からアーシアを慕って、フルバードは自分が知りえる情報を教えてくれるようになっていた。




