45話・王の後悔
「側妃は余の犠牲となったのだ。余はある晩、夜会で媚薬を盛られた。ソフィアは体調を崩していて不参加だった。そこを狙われたようだが、様子のおかしい余のことに気が付いて、余の相手をしたのがあれだった」
父が懺悔するように言った。
「側妃はおまえ達の母に忠実だった。いくら薬を盛られ自我が消えかけていた余の相手をしたと言っても、主人を裏切るようなことをした自分が許せなかったようだ。翌日には王宮から去ろうとしていたのを、ソフィアが見咎めて話を聞き出し真実を知った。その後に妊娠が発覚し、ソフィアの勧めもあり彼女を側妃として迎え入れた」
父は媚薬を盛られ、そのせいで女官に手を付け子供が出来たので側妃として迎えたと告白した。媚薬は強烈なものだ。一度盛られると意識が酩酊状態となり、強い性欲が沸き起こりそれを治めるのに、性交をしなくてはならないと聞いたことがある。母としては複雑な気持ちだっただろうが、父に側妃として迎え入れるように進言したことから、側妃との関係は悪くなかったのだろう。
「おまえには言い訳のようにしか聞こえないだろう。当時の余には、そうするしか道がなかった」
第二王子の母親が側妃となった経緯は分かったが、父にはその他にも寵妃や、現王妃という存在がある。父の言葉を鵜呑みには出来ない。父を知るだけの年月を共に過ごしては来ていない。今のアーシアにとって親とは、ただ血の繋がりがあると言うだけで信用に値する相手ではなかった。王はため息を漏らした。
「ソフィアが亡くなってから、ネスワルドの命が狙われ始めた」
「……!」
「その頃、王妃の実家が圧力をかけて来ていた。王妃の実家はこの国の半分以上を占める領地を持ち、元を辿れば王家に由来のある血筋だ。彼らはヴィジリタスの子孫でもある」
「ヴィジリタスって、我々の祖先ガーゴイルの双子の兄の?」
「そのヴィジリタスだ」
「ヴィジリタスには、妻子がいたのですか?」
「政略結婚で迎えた王妃との間に子はなく、愛人との間に生まれた子がいた。その子は父親亡き後、ガーゴイルの家臣バジリスク家に養子として迎えられた。それが現王妃の祖先だ」
思ってもみなかった真実だった。王妃がヴィジリタスに連なる血筋だったとは。
「王妃の父親であるバジリスク公爵は、余の後妻として娘を迎え入れるように要請してきた。それを拒めば国が割れる」
「それで父上は、王妃を娶った」
「ああ。これでネスワルドの命が狙われることもなくなった。婚姻してからバジリスク家も大人しくなった。表向きには落ち着いたのだと思っていた」
その言葉には、深い後悔が感じられた。バジリスク公爵は、娘が王妃となりその娘が産んだ子の外祖父として、力を持つことを望んだ。父もそれを承知で娶った気がする。父と現王妃との間に生まれた第三王子のウィルマーは、聡明で評判が良かったと聞く。
父は恐らく、亡き妻ソフィアの産んだ子らを守る為にも、ウィルマーを王太子にし、バジリスク公爵と良好な関係を望んだ。それがある女性の行動で、何もかも失ってしまった。
王家に対して禍根の残る、バジリスク家との結びつきを与えてくれたはずの王子が、寵妃の手によって亡くなってしまったのだから。
「オルテンシアを側に置くのではなかった」
父はオルテンシアを寵妃にしたことを、深く悔いているようだった。彼女は第二王子と、第三王子の命を奪った。本人は王妃との諍いで第三王子のみ、狙ったようなことを言っていたが、王族殺しは大罪だ。
「どうしてオルテンシア様を寵妃に?」
「オルテンシアは、薬学に詳しかった。元は女官で余の為に薬を煎じてくれたのがきっかけで側に置いた。甲斐甲斐しく世話をしてくれるあれに情が湧いたのだ。それが間違いのもとだった」
「下手を打ちましたね。薬学に詳しいということは毒にも通じているという事ですから」
父親が下手にオルテンシアに情けをかけたことで、王妃の嫉妬を買い、それによってバジリスク家とガーゴイル家の、架け橋となるはずだった息子を喪ってしまった。




