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44話・王の遺言



 それがある日、兄ネスワルドからの火急の知らせで一転した。ノアールをロージイ達に預けて、偏屈な中年男性に身をやつしたノクティスと転移魔法で駆けつければ、王の寝室へと案内され、そこには王妃や宰相や重臣たち。第四王子のフルバード、第五王子のハバルがいた。寝台の王はやつれていて目の下の隈が酷かった。この先が長くないことが見て取れた。



「余の遺言だ。必ず成し遂げよ。次の王にはアルテミシアを望む」



 唖然とするアーシアを前に、第四王子や第五王子は納得の頷きを返した。宰相や重臣たちは「拝命仕りました」と、頭を下げる。その中でたった一人、王妃だけが納得のいかない顔をしていた。王に食って掛かろうとする。



「アルテミシア殿下は王女ですよ。歴代王になる者は男子と決まって──」

「決まっておらぬ」



 王妃の言葉を遮るように言えば、王妃は忌々しそうにアーシアを睨みつけると、不機嫌な様子も隠さずに荒々しく退出した。王妃としては、いけ好かない息子の第四王子のフルバードを、実家の父親の意向で次の王に据える予定だったのだろう。フルバードには、お飾りの王でいてもらう気でいたのかも知れない。



「この国の王位継承権は王子のみではない。王女にもある。今までは後継者教育を受けてきた王子優先とされてきたが、それを受けていたおまえにもその権利がある」

「権利?」



 アーシアは離宮での暮らしを振り返った。確かに言われてみれば毎日のように勉強をさせられていた。初めは生贄にされる自分にどうしてこのような教育が必要なのかと思い、反発心を抱いたこともある。そんな自分を宥めて勉強を推し進めたのは乳母であり、周囲にいた使用人達だった。でも、そうなると父は自分を──?



「アルテミシアとその夫君を残して、皆は退出してくれるか?」



 父の意をくんだように、宰相は王子や重臣たちを促し退出した。その場にはアーシアとノクティスだけが残った。皆が部屋を出て行き、しばらくしてから父は問いかけてきた。



「おまえはアルテミシアではないのだろう?」

「──!?」



 やはり父は、自分とアルテミシアの入れ替わりに気が付いていたのだとアーシアは思った。



「乳母たちには、アーシアと呼ばれていたようだな?」

「どうしてそれを?」

「離宮に送ったおまえのことは、ユコダから報告を受けていた」



 ユコダの名前が出て来て納得した。彼は王宮護衛隊の隠密部隊にいた。定年を迎え、若手を育てていたが、アーシアが生まれた時に、一緒に離宮へと付いて来た。その時からすでに彼は、王の密命を受けていたのに違いなかった。



「どうしてそんなことを? と、言った顔をしているな」



 久しぶりに見る王の顔は、為政者ではなかった。目の前の自分を案じる父親の姿がそこにあった。声音は優しかった。



「余はおまえ達の母ソフィアを愛していた」

「それなら何故、側妃を迎えるようなことに?」



 王は女好きと噂されていた。アーシアは実際にその場面を見たわけではない。離宮で暮らしていた時に、乳母や使用人達が嘆いていたのを耳にしていただけだが、王が側妃を迎えたのは、前王妃がアーシア達を妊娠する一年前のこと。しかもその側妃は、前王妃付きの女官で妊娠していたのを機に、側妃として迎えられた。

 残念ながら側妃は第二王子を出産後に命を落とし、その一年後、前王妃はアーシア達を産み落とし亡くなった。そしてその数か月後に、父は現王妃を迎えている。


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