40話・神の手
家の中は何かの宝石の中でも削ったように空洞が広がっていて、天井や壁、床までが白っぽく、その中に赤や緑の発光物が埋まっているように感じられた。周囲を物珍しく見ているアーシアに、チムが微笑んで教えてくれた。
「我が家はオパールで出来ているのですよ」
「オパールって鉱石の? ノームの皆さんは鉱石にお住まいなの?」
「ええ。ノースデン山に住むノームは皆、鉱石を住まいに取り入れています」
「それはどうして?」
「我々の仕事は石工ですからのう」
「石工って凄いお仕事ですのね。何でも石で作ってしまうのでしょう?」
自分達の仕事を誇るようにロージイは胸を張って言った。感心するアーシアにノクティスが補足説明をする。
「ノーム達は人間の石工とは違う。何でも作り上げる技は素晴らしく神の手と言っても良いくらいだ」
「竜王陛下にお褒め頂くとは。恐縮ですな」
ロージイはそんなでもないですよ。と、言いながら、おっほっほと特徴ある笑いをした。その隣のチムもニコニコと笑っていた。ここにアーシアを案内したノームの若者たちは、いつのまにか消えていた。
「あの子達は?」
「ああ。家に帰ったのでしょう」
「あいつらはいつもわしらの家を通り道にしているので」
「どうぞ。狭い家ですが、お座りになって」
チムに進められて、床の上に置かれた大きなクッションのような物に座る。隣にはノクティスが胡坐をかいて座った。その前にチムがクッキーを載せたお盆を運んできた。
お盆のお皿の中には、ドーナツ型のクッキーが数枚乗せられていた。クッキーには砕いた木の実が降りかけられている。果実を絞ったジュースも一緒に差し出された。
「まあ、美味しそう」
「お口に合えばいいのですが」
「んん。美味しい」
自然の中での暮らしに溶け込んでいるノームの作ったクッキーは、素朴でアーシアの舌にすぐ馴染んだ。行儀悪くもクッキーを齧りながらアーシアは聞いた。
「皆さんはこちらに住んで長いのかしら?」
「そうですな。四十年? いやあ、五十年ほどになりますかな。以前は妖精界に住んでいたのですが、追放されまして」
「追放? どうして?」
「妖精女王に、わしらは妖精にしては見た目が悪いから出て行けと言われましたのじゃ」
「失礼な話ね。ノームさん達はこんなに可愛いのに。その女王様は目が悪いのではなくて?」
ロージイが当時を振り返るように話し出した。その隣でチムは大人しく話を聞いていた。
「でも、竜王陛下からノースデン山に住まないかとお誘い頂きまして助かりました。そのお誘いがなかったのなら、わしらは定住の地を求めて放浪していたかも知れませぬ」
「そうだったの。さすがはノクね」
アーシアが感心したように言えば、ノクティスは満更でもない顔をした。アーシアはあることが気になった。
「このお部屋だけど、わたくし達でも入れるように大きくしてあるの? お菓子の器や、ソファーなどもわたくし達に合うサイズみたいだけど?」
「シア。いや、これは伸縮している」
「伸縮?」
「彼らが作る物には、使う相手によって伸び縮みする性質を持たせている」
「じゃあ、この部屋も本来はそんなに大きくないけど、わたくし達が来たことによって大きくなった?」
「そうだ」
「凄ーい。さすが神の手ね」
アーシアが拍手を送ると、「いや、それほどでも」と、ロージイは照れくさそうに言う。アーシアがクッキーに目をやると、チムが慌てて言った。
「でも、食べ物はちゃんと本物ですよ。石では作れませんからね」
「そこは疑っていないわ。美味しかったです。ただ、クッキーも伸縮したのかと思って」
「それはさすがに無理です」
アーシアの言葉に、チムが気まずそうに返した。皆が笑った。ジュースも柑橘系の果物を絞った物の様で、のど越しが良く美味しかった。




