38話・たまには外に出てみないか?
「恐らくネスワルド殿下の指示だろう」
「兄上が?」
「あれは早くからそなたの存在に気が付いていた。それで保険をかけたのだろう」
「保険?」
「母親たちの抗争に巻き込まれて、王子らは何度も危険な目に合ってきた。王妃の目を逸れているそなたならば、生き残れるかもしれないと可能性にかけたのだろう」
「もしかしてわたくしに教養を授けたのも?」
「ネスワルドの意向もあっただろうな。いくら叔父とはいえ、宰相と言う臣下の身で離宮のことを整えられるはずがない」
20歳に生贄として捧げられるというのに、毎日何かしらの勉強をさせられて教養をつけさせられたのは、万が一、兄達の身に何かあった後を託す為に? 兄のネスワルドは不器用な人だ。外見からしてとっつきにくいものを感じさせるが、誰よりも家族思いなのかもしれない。
「僕はアーシア姉さまが気に入ったから、加護を授けようかと──」
「いらぬ。シアには我が付いている。シアは簡単に死なない」
「そうだよね。史上最強の竜王さまがついているから余計なお世話か」
フルバードが嬉々として言いかけたのを、ノクティスはぶった切った。アーシアはフルバードが何を言いかけたのか分からなかったけど、彼の表情がだいぶ明るくなったので気にしないことにした。二人はアーシアを挟んで、なんだかんだ言い争っていたけど、案外二人は仲が良さそうだ。
数日後。ネスワルドから引き継いだ執務の間にため息を漏らしていると、ノクティスから誘われた。
「たまには外へ出てみないか?」
「それ、いいわね。少し息抜きがしたいわ」
「それならいい場所を知っている」
ノクティスに促されて王宮の廊下に出ると、彼は指を鳴らした。すると懐かしい場所にいた。王宮に来てから何度か気にしていた。王宮から馬車なら片道三日もかかる所へ、何の魔法なのか一瞬でたどり着いていた。
「ここは……ノースデン山?」
周囲を青紫の竜胆に取り囲まれていた。ここはある晩、ノクティスに連れられて来た離宮からそう遠くない竜胆畑だ。
「離宮に連れて行こうかと思ったが、あそこは今、閉鎖されているからな」
「そうね。離宮に行っても誰もいないのでしょうね」
離宮はアーシアが王宮に来ることが決まってすぐに閉鎖された。使用人達は麓の街に皆降りたと聞いている。誰もいない離宮に行ってもつまらないだろうと、ノクティスがこの思い出の竜胆畑に連れて来たのに違いなかった。
「あの時も素晴らしいと思ったけど、見事な竜胆畑ね」
「お褒めに預かり最高です」
かがんで竜胆を見ていたら声がした。それと同時に「あ、馬鹿っ」と、制止するような声も聞こえた。
「だ、誰?」
立ち上がって周囲を見渡すも、誰の姿も見えない。キョロキョロと捜してしまった。ノクティスが不機嫌な様子を隠さずに言った。
「出て来い。ノームども」
「はい……」
「ロージイのところの息子どもか」
ノクティスの声におずおずと姿を見せたのは三人の小人達だった。アーシアは目を輝かせた。




