37話・バードからの忠告
「でもね。そこでわたくしは自分の唯一に出会ったわ。彼と出会ったことが転機となった。だからもう、そんな顔をしないで」
アーシアが向かい側のソファーの後ろに立ったままのノクティスに目をやれば、不機嫌だった彼の様子が少しだけ和らいだ感じがあった。フルバードは頷いた。
「姉上は竜王陛下の番だったのか。辛い過去を清算しても余りあるほどの幸せと巡り合えたのだね」
「そうなのよ。分かる?」
アーシアは、フルバードに肯定されて嬉しくなった。一度は自分の人生を諦めていた。でも、それをひっくり返した状況に今はいる。
「辛い過去はなかったことは出来ないけれど、それでも新しい幸せは自分の手で作り出すことは出来ると思っているわ」
「姉上は前向きで素晴らしいね。姉上はアルテミシア姉上ではないよね? 本当のお名前は何と言うの?」
「わたくしはアーシアよ」
「アーシア?」
「でも、人前ではアルテミシアと呼んで欲しいわ」
「分かった」
フルバードに笑顔が戻りホッとすると、目の前から「いつまでそこに座っている?」と、不機嫌そうな声がしてきた。
「まあ、ノク。それって嫉妬なの?」
アーシアが聞けば、プイッとノクティスは視線を逸らした。その態度すら愛おしく思えて、「はいはい」と、言いながらアーシアは定位置の席に戻った。その様子を微笑ましく見ていたフルバードは、そう言えばと言った。
「最近、王妃さまがね、アルテミシア殿下に注目している」
「わたくしに?」
「王妃さまの取り巻き連中が、アルテミシア殿下が以前とは違うと言い出したのさ。今まで頭の中がお花畑で、綿菓子みたいにふわふわした言動が多かったアルテミシア殿下は、頭の中がお粗末な王女と思われていたけれど、それは仮の姿で周囲を欺いてきた。なんて言われているよ」
「わたくしが別人とバレる可能性があるということ?」
「そこまでは考えていないと思う。今まで王女は馬鹿な振りをしていたと聞いて、何か探っているのではないかと思っているようだよ。あの人は結構、後ろ暗いところがあるからね」
「わたくしに何かバレることを恐れている?」
「まあ、ざっくり言うとそんな感じ。これから食事とか気を付けた方が良いよ。あの人、毒を盛るのがお得意のようだから」
フルバードは警告めいたことを言ってきたが、そこにさほど危険性を感じられないのは何故だろう? 彼が飄々とした人物だからだろうか?
「アーシアは毒については耐性があるから大丈夫だ」
「……?」
ノクティスの言葉に不信を抱いて、振り返ると思ってもみなかった事実を告げられた。
「ノクティス?」
「そなたは離宮に住んでいた頃から、微量の毒を摂取させられていた」
「……! 嘘。本当に?」
「気が付いてなかったのか?」
それは自分が生贄だったから? 一瞬、生贄として育てつつも毒を盛っていつか死ぬのを待っていたのかと不穏なことを考えたアーシアだったが、それをノクティスは遮った。




