36話・彼らの事情
「王妃さまに不審者扱いされてその場から追い出されそうになったから、彼女をあの孤児院に連れて行ったんだ。あそこのシスターたちは面倒見が良さそうだったから。ホリーを預けて正解だったよ」
それにしても。と、フルバードは納得のいかなさそうな顔をした。
「僕としては感動のご対面となるかと思っていた。それなのに身なりだけでその人の本質まで疑うだなんてがっかりだよ。あんなに僕の前で『失った娘を返せ』なんて言って怒っていたから、本物を捜し出して会わせてあげたと言うのにさ、感謝の気持ちもない」
「それは失礼したわ。王妃殿下に変わって謝ります。ホリーを捜し出してくれてありがとう。ホリーは王宮での暮らしを望んでいるのかしら? もしも、そうならわたくしや兄上が後見役について……」
「それはもういいよ。ホリーは平民として暮らしていきたいって言っていた。実の母親を見て失望したらしい」
王妃は自分が本当の子じゃないと見抜いたのに、実の子が分からないなんて思いもしなかった。と、フルバードは寂しそうに言った。
「僕もさ、王妃には散々、罵られて育ったから、ホリーの再会に喜んでくれて、少しは僕のしたことが報われるかなと思ったけど、そうは上手くいかないものだね」
アーシアは、残念そうに言うフルバードの心情が分かったような気がした。立ち上がって彼の隣に腰を下ろすと驚く視線が向けられた。背後からは刺すような鋭い視線を感じたが無視をした。今はこの孤独を抱えた王子の心に寄り添ってあげたくなったのだ。
「あなたのしたことは無駄じゃないわ。ホリーは妖精界であまりいい思いをしていなかったのでしょう? あなたはそれを助けた。ホリーは報われたわ」
「姉上……」
「王妃さまは目が曇っているのよ。真実を見たくない病気にかかっているのでしょうね。だからあなたを息子として、素直に受け入れられないのかも知れない。でも、あなたには兄上もいる、わたくしもいるわ。そしてハバルも付いているわ」
「でも、僕は妖精で……」
「それが何? 妖精だったとしても、あなたはここで育った第四王子に間違いはないわ。そうでしょう?」
フルバードは涙目になっていた。アーシアは言った。
「わたくしはね、生まれた当初双子だったの」
「……!」
アーシアの告白に、フルバードは息をのんだ。彼はアーシアの状況を知らなかったらしい。
「王家にとって双子は禁忌の存在。わたくしはガーゴイルに捧げる生贄として、ノースデン山にある離宮に送られた。20歳になったら死ぬ予定だった」
「そんなあり得ない」
「王家の因習よ。わたくしは本来ならば親、兄妹に生涯会うこともなくひっそりと処理される立場にあった」
アーシアが生贄として育てられていたと知ると、フルバードは憤った。
「わたくしは毎日、思っていたわ。自分は20歳になったら死ぬ。今を生きているのは何の為なのかと。死ぬために生きるなんておかしくない? 怖くて仕方なかった。どうせなら生まれた時に殺してくれれば良かったのにと、何度思ったことか」
「姉上」
「そうじゃないと心が落ち着かなかったの。自分が死ぬことは父親が勝手に決めたこと。それにわたくしは反発心を持っていたから。自分は生きていたいのに、父親のせいで自分の未来が奪われたように感じられて」
フルバードは不憫そうに見つめてきた。
「でもね。そこでわたくしは自分の唯一に出会ったわ。彼と出会ったことが転機となった。だからもう、そんな顔をしないで」
アーシアが向かい側のソファーの後ろに立ったままのノクティスに目をやれば、不機嫌だった彼の様子が少しだけ和らいだ感じがあった。フルバードは頷いた。




