35話・チェンジリングの真相
自室に戻ると、フルバードが訪ねてきた。彼の着ている物は吟遊詩人の恰好そのものだから、王都から帰って来てまっすぐこちらに来たようだった。侍女にお茶を用意してもらい、応接間に通してもらうと、ノクティスだけその場に残し、皆には下がってもらった。
「これはノースデン山の主にして、ノクティス竜王陛下。ごきげんよう」
フルバードは、ノクティスの前で帽子を取り、華麗に挨拶をしてみせた。彼にはノクティスの正体が分かっているようだった。ノクティスは頷くのを見てアーシアが席に促すと、彼はアーシアが勧めたソファーに腰を下ろした。ローテーブルを挟んでアーシアは向かい側の席に着き、その後ろには護衛としてノクティスが立つ。
「さっそくあのパン屋にいた少女に着いて聞きたいのだけど、彼女は王妃さまの娘なの?」
「生まれはそうだよ。でも、王妃さまは認めなかった」
アーシアはフルバードの言い方が気になった。出自はそうだが、母親が認めなかったとはどういうことなのか。そんな思いが透けて見えたのか、彼は言った。
「彼女を救ってこっちの世界に連れて来たのは6年前。僕は覚醒したばかりでそんなに力がなかったから、捜し出して連れてくるので精一杯だったんだ」
「覚醒? こっちの世界?」
「あれ? 気が付いてなかった? 僕は妖精だよ」
戸惑うアーシアに、あっけなくフルバードは明かした。
「ある馬鹿な妖精が人間の国の王女さまと、自分の子を悪戯で入れ替えたのさ。自分の子が男ばかりでつまらない。女の子が欲しいって理由でね」
「もしかしてあなたと彼女が入れ替わり?」
「そうだよ。だから母親の王妃はホリーが生まれた時、王女だと思っていたのに翌朝、王子だったと言われて発狂したそうだ。そりゃ、そうだよね。女の子だと思っていたのに、男の子に性別が変わるなんて普通ならあり得ないもの」
「それをどこから聞いたの?」
生まれたばかりの赤子だった彼らが知ることはない。誰かが彼に教えなければ知りえない事。
「人間の王がかん口令を敷こうとも、小鳥たちは聞いている。子猫たちは見ている。秘密なんて僕らの前ではあってもないようなものだ」
「あなたはチェンジリングされたホリーの存在を知っていたの? いつから?」
「物心ついた時には、チェンジリングされた子の存在を感じ取っていたし、彼女がいい環境にないと知っていた」
「だから助けようとした?」
「うん。こっちで見かけた妖精たちに助けを求めたら、妖精王が怖くて動けないと言うから僕が自分で迎えに行くしかないと思ってさ、結構、頑張ったんだよね」
彼の見た目からは、大変さが全然伝わってこないが、色々と今まであったようだ。
「ようやく力が覚醒して彼女を助け出したのはいいけど、王妃さまの前に直接、彼女を連れて行ったら、『こんな娘がわらわの娘ですって? 愚弄する気か?』って怒鳴られた。ホリーは髪もぼさぼさで身なりも汚らしかったから、自分の娘じゃないってさ」
恐らく王妃は、見た目からしてホリーを、チェンジリングで失った娘とは認めたくなかったのだろう。




