34話・チェンジリング
「おまえは建国王の話をどこまで知っている?」
「双子で生まれ、兄はこの国の守り神となり、弟は簒奪して一族郎党を死に追いやるだろうという神託により、弟の方は森に捨てられた。そして弟は傭兵に拾われて育った後、一人の女性と出会い恋人同士となったのを兄が奪い、恋人を取り戻そうとした弟は失敗に終わり、獄中死した。弟の恨みは深く、それを鎮魂する為に祭り、その弟は王家の守護神とされた」
「まあ、表向きにはそうだ。だが、真実は少し違う」
アーシアは、ノクティスから聞いていた話を口にした。ネスワルドは頷きながら言った。
「ヴィジリタスと、ガーゴイルは入れ替わっていた」
「……! では獄中死したのはヴィジリタスの方?」
「そうだ」
「いつから入れ替わって?」
「ガーゴイルが森に捨てられ、ある傭兵に拾われて育ったのは確かだ。そこで彼は一人の女性と出会った──と、言うが正確には竜人だ。その竜人はとても美しかった。その頃、ガーゴイルは傭兵たちを束ねる長のような立場にあった。当時、この国は幾つもの国に別れ、領土拡大の為に戦いに明け暮れていた。そのうちの一つ、小さな国の領主がヴィジリタスで、彼は国の兵力として、評判の高かった傭兵たちに目を付けた。彼らを自国に取り込む為に、その長であるガーゴイルを呼び出し、晩餐会を開いた。そこでガーゴイルの容姿が自分によく似ているのに驚いたようだったが、彼の関心はガーゴイルの連れていた女性にあった」
「それがガーゴイルの妻?」
「そうだ。ヴィジリタスは、ガーゴイルに成りすましその晩、妻の寝室に入り込もうとした。そのことがガーゴイルの逆鱗に触れた。今にもヴィジリタスを殺そうとした彼を宥めた宰相が、王との入れ替わりを唆したと言われている」
「宰相が? もしかして宰相は二人が双子だと知っていた?」
「前国王から聞かされていたようだ。ガーゴイルは捨てられた時に、右腕に痣があったようで、それに気が付いた宰相は、ガーゴイルが捨てられた王子だと悟ったらしい。
ヴィジリタスは世継ぎとして乳母や侍従たちに甘やかされて育ち、態度が横柄なばかりか、女好きで周囲で問題ばかり起こしていた。諫めようとした母親の王妃を殴って死なせ、臣下に厭われて父王は頭を痛めていたと言う。信託に沿って弟王子を捨てたが、それが間違っていたのではないかと後悔していたそうだ」
「宰相としては、性格に問題ありの王をそのまま玉座に付けておくよりは、人格者で傭兵として部下に慕われているガーゴイルに、王になってもらった方がいいと判断したようだ。ヴィジリタスはすぐに牢に入れられ、死ぬまで牢から出されることはなかった。それからガーゴイルはヴィジリタスを名乗り、周辺の国々を取り込んで今のヴィジリタス国を作り上げた」
「では私達はガーゴイルの子孫?」
「そうなるな」
ネスワルドは事も無げに告げた。アーシアは愕然とした。何となく察してはいた。フルバードが語っていた話がもしも、建国王の話ならばと。何か意味があるのではないかと思ってはいた。でも、実際に兄の口から先祖の入れ替わりの話が肯定されると何とも言えない気持ちになった。
「……兄上は、王都のベーカリに住み込みで働いているホリーという少女を知っていますか?」
「ホリー?」
「黒髪に青い目をした王妃さまに似ている少女です」
「ひょっとしてフルバードが、気にかけている少女か?」
「はい」
「チェンジリングの娘だろう? あれにも罪悪感というものがあったようだ」
「バードは何者ですか?」
「あれの愛称を呼んでいるのだな。それだけ打ち解けているのなら直接、本人から聞くがいい。いまの私が言えるのは憶測でしかないからな」
問いかけたアーシアに、ネスワルドは答えてくれなかった。咳き込み始め、今日はもう疲れたからと部屋から追い出されるようにして後にした。ネスワルドは何か知っているようだが、アーシアに明かす気はないようだ。直接、本人から聞いた方がいいと言われてしまっては、それ以上の追及は出来そうにない気がした。




