33話・建国王の話?
「あなた──」
「姉上。確かめに来たの? そうだよ。彼女はあなたが思った通りの子だよ」
アーシアが言いかけたのを、バードが遮った。それ以上は言わせまいとする彼の気持ちが伝わってきた。
「詳しいことは後で話すよ。ここでは止めて」
バードが顎をしゃくった先に、街路を行き来する人々の足が止まっていて、こちらを窺っているのが分かった。特権階級者がパン屋の前に馬車を止め、吟遊詩人らしき人物とパン屋の従業員に声をかけている。何があったのかと人目を惹いてしまっていたようだ。
「分かったわ。では後で」
そう言ってアーシアは退散するしかなかった。
王宮に帰ってから、視察の報告をネスワルドに報告に行くと彼は寝台の上で待っていた。
「兄上」
「どうだった? なにも変わりはなかっただろうか?」
「はい。大丈夫でしたよ。清潔に保たれていて子供たちも元気に育っているようでしたし、シスターたちも生活には困っていない様子でした」
「それは良かった」
「子供たちはネスワルドお兄ちゃんが来ないのかと、寂しがっていましたよ」
「そうか……」
それを聞いてネスワルドは目元を緩めた。普段は堅物で融通の利かなさそうな顔をしている彼は、孤児院の子供たちを思いうかべたのか優しい表情を浮かべていた。孤児院の子供たちは気持ちに正直だ。裏表がない。ネスワルドにとっても彼らの存在は癒しとなっていたのかも知れない。次は一緒にと言いかけたアーシアは口を噤んだ。恐らくその日は来ない。そのような言葉は兄にとって、気休めにしかならないはずだ。
「兄上はあの孤児院に、フルバード殿下が通っているのを知っていたのですか?」
「会ったのか?」
「はい」
フルバードのことを聞けば、会ったのか?と、問われた。ネスワルドは、フルバードが来ていたのを知っていたようだった。
「あれは何の話をした?」
「愚かな王の話を。村男のガーゴイルが美しい娘と知り合い、夫婦になった後で、その妻に目を付けた王に妻を奪われ取り返した話です」
そう言って彼の話した内容を語って聞かせると、ネスワルドは確信したように言った。
「建国王の話だな」
「子供向けの童話かと思いました」
この国の成り立ちについては、以前ノクティスから聞いたことがある。背後に護衛として控える彼に目を向けると、彼は黙っていた。




