31話・6年前から彼はここに来ていた?
「いやだな。アハハ。そんな顔しないで。僕はフルバードだよ」
「あなたがフルバード──?」
「そんなに僕って印象が薄いかな? 第4王子のフルバード。王宮では新年の挨拶でしか顔を出さないから忘れてしまった?」
青い瞳の彼はクスリと笑い、ウインクしてくる。確か聞いていた話では、彼は16歳と聞いていた。
「どうしてここに?」
「ん? 僕は王宮なんて堅苦しくて苦手だ。こうやって好きな楽器を弾いて、物語を紡ぐ方が性に合っている。そうは思わない? 姉上」
まだ16歳だというのに、世俗から離れたようなもの言いに本心かどうか気になってしまう。
「王妃さまはここにいることを?」
「あの人? 僕の事なんか気にかけていないよ。僕を嫌っているくせに、実家の公爵家の爺さんの指示で僕を次期王につけようと躍起になっているだけで、本人はどこかで野垂れ死にしてくれと思っているだろうね」
「そんなことはないでしょう。きっと捜しておられますよ。わたくしの馬車で一緒に帰りましょう」
「姉上は優しいね。でも、時としてそれは自分を苦しめることになる。気を付けな。ああ、でも、この世で一番頼りがいのある護衛付きか。じゃあ、問題ないかな」
「フルバード殿下」
「僕のことはバードでいいよ。仲いい奴はみんな、そう呼んでいる」
王宮を抜け出してきた彼をそのままにはしておけない。一緒に帰ろうと促したら話をはぐらかされてしまった。そこへシスター長がやってくる。それを見たバードは「じゃあね」と、手を振って去ってしまった。
「あの語り部の彼が何か?」
「シスター長」
シスター長は、食堂で子供たちの食事の用意をしていたらしい。その作業が終わってこちらに顔を見せたようだ。シスター長はバードがアーシアの前から去るのを目撃し、彼が王族を前に何か失礼なことでもしたのではないかと警戒しているように思えた。
「彼に面白いお話を聞かせてもらったので、その感想を伝えていました」
「そうでしたか。彼は語り部でちょくちょくこちらの修道院に顔を出しては、子供たちに物語を聞かせてくれるのです。それを子供たちは大変楽しみにしております」
「そのようですね」
シスター長は、バードが王子だと知らないようだ。本人が明かしていなことを、自分の口から明かすのは悪いような気がして言うのを止めた。でも、バードがこちらに顔を出すのは、何か理由があるのか気になった。
「シスター長は、彼とは親しいのですか? 彼はいつぐらいからこちらへ?」
「そうですね、彼と初めて会ったのは6年前でしょうか。それからの付き合いになります」
「6年前に何があったのですか?」




