28話・リュート引きのバード
「あっ。バードだっ」
「あの人は誰?」
「バードはね、ものがたりをうたってくれるの」
庭先に大きな羽の着いた鍔の広い帽子を深々と被った一人の青年がいた。彼は手にしたリュートをつま弾いていた。その青年を目掛けて方々から子供たちが集まり群がる。手を引いている子供にあれは誰かと訊ねれば、リュート引きのお兄さんだと言う。
彼は白地のチュニックに、長い黒いコートを合わせ、革のブーツを履いていた。帽子を目深く被っているので表情は分からないが、恐らく恰好からして吟遊詩人に思われた。
「バードさんはいつも来るの?」
「うん。ときどきくるよ」
「そしてね、すてきなおはなしのおうたをきかせてくれるの」
「おねえちゃんもいっしょにきこう」
彼の前に並んで座り黙って聞いている子供たちは楽しそうだ。その子供らに交じってその場に腰を下ろすと、リュート引きがこちらを見た気がした。
「今日は何のお話が聞きたいかい?」
「おひめさまがでてくるおはなしがいいな」
「かっこいいおうじさまがいい」
「おうじさまより、きしさまがいいな」
子供たちが思い思いに希望を言う。それを聞いてバードは困ったように笑った。
「皆の希望を全部入れるのはなかなか難しいな。じゃあ、ある愚かな王さまのお話はどうかな?」
「まあ、いいよ」
「それでいいよ」
妥協とも言えない案だったが、子供たちはバードの弾き語りに興味があるらしく、中身に対してこだわりはなさそうに思えた。アーシアは弾き語りなど一度も聞いたことがないので、子供たちと同じく興味津々で待っていた。バードがちらりとこちらを見た気がしたが、一瞬のことだった。バードがリュートを引き始めると、子供たちはみな、一斉に口を閉じて耳を傾け始めた。バードは言葉を紡ぐように歌い出した。それは物語だった。
──遠い昔。妖精と竜が人間と共に暮らしていた時代。
ある村に一人の男がいた。
その男の名はガーゴイルと言った。
アーシアは、バードの歌にハッとした。もしかして建国時代のガーゴイルの話? 思わず凝視してしまう。隣では子供たちがわくわくした表情で魅入っていた。
──ガーゴイルは、両親を早くに亡くし一人暮らしをしていた。
だが、心優しく頼もしい男だった。
力自慢で、村のお年寄りが重いものを持つのに困っていると助けてやり、
狩りに出て何も取らなくて困っている若者を見つければ、
自分が捕ってきた鳥のうち何羽か分けてやる。
日が暮れても畑の仕事がなかなか終わらなくて、
泣いている娘がいれば手助けしてやっていた。
何かの昔話だろうか? ただ名前が一緒なだけのようだ。少しホッとした。余計な気を回さなくて助かる。
──彼はある日、狩りの帰り道で一人の娘と出会った。
娘は旅人で大層、綺麗な人だった。
彼女は足に怪我をしていた。
どうやら野良ウサギを捕らえる為の罠にかかってしまったようだ。
怪我を見て同情した彼は、
彼女を背中に背負って家に連れ帰り、
怪我をした足を丁寧に消毒して薬を塗ってあげた。
彼の優しさに触れたその娘は、
足の怪我が治るまでしばらく家に置いて欲しいと言った。
ガーゴイルは快く応じた。
娘はそのお礼にと、ガーゴイルが仕事で外に出ると、
家の中のことをしてくれるようになった。
娘は働き者で掃除、洗濯を毎日してくれて、
その上、美味しい料理で帰宅するガーゴイルを出迎えた。
一人暮らしだったガーゴイルは
いつしか家に帰るのが楽しみになってきた。
彼女は怪我が治ってもガーゴイルの側に居続けた。
そのうち二人は恋に落ち、夫婦になった。
ガーゴイルと彼女は仲が良く
村の評判にもなった。
もともと村の人気者だったガーゴイルが、
どこからか綺麗なお嫁さんをもらったと、
村中の人が喜んで祝福した。
二人は幸せな毎日を送っていた。
そこへその国の王さまが、視察の帰りに馬車で村を通りかかった。




