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26話・おまえに王宮の未来を託したい



「私達兄妹でさえ、王宮の行事以外で接触したことはなかった。あれはあれで私を避けていたからな」


 そう言う彼の声音はどこか寂しそうなものがあった。


「彼女の事、大事に思われていたのでしょう?」


「母上は亡くなる前まで、お腹の子を気にかけていた。なにかあったらおまえが助けるのですよと言い残された」



 アルテミシアのことを気にかけてきたのは、亡き母の言葉があったからだと言った。それをアーシアは他人事のように聞いていた。



「アーシア。今回、おまえをアルテミシアとして王宮に戻したのは私の独断だ」

「兄上」


「おまえはこの王家に伝わる忌々しい因習の犠牲者だ。許してくれとは言わない。憎んでくれていい。それでもおまえにこの王宮の未来を託したいと思っている」


「私に?」


「ハバルはもともと王座になど興味はない。あれは剣術に秀でていて、ゆくゆくは剣で身を立てたいと願っていた。今回、母親のことが公になって、王位継承から外れて臣籍降下することが正式に決まった。第四王子のフルバードは、愛想はいいが得体の知れない部分がある。あれに託してはいけない気がする」



 今、王宮では第二王子や第三王子が命を落とし、もっとも次期王の座に近いと目されているのは第一王子であるネスワルドだった。そのネスワルドから後を託したいと言われ、縁起でもないとアーシアは思った。


 第五王子の母、オルテンシアは規律厳しい修道院へ追いやられることが決まった。そこで自分がした罪を認めて、生涯祈りを捧げ続けることになる。


 王宮に戻って来てからアーシアは、一度も第四王子に会ったことがなかった。ネスワルドも彼とはあまり交流していなかったようで、得体が知れない等と言う。他の兄弟達とも交流することはなく、一人でいることが多かったようだ。


 でも、第五王子のハバルは第四王子とは年が一つしか変わらないので少しは交流があったようだ。

「フルバード兄さまは、リュートが得意だよ。でも王妃さまに嫌われているみたい。あまり一緒にいるところを見たことない」


 と、言っていた。使用人達の噂から拾った話では、いつも市街に出歩いているので、それを王妃さまに見咎められているようだ。


 ネスワルドは第四王子を警戒しているようだが、ハバルは末っ子で兄王子達に可愛がられていたこともあり、第四王子のことを警戒している様子はなかった。

 王妃が溺愛していた第三王子のウィルマーは、黒髪に黒い瞳の母親似だったと聞く。その後に生まれた第四王子は、王家に稀に生まれると言うピンクブロンドに、青い瞳をしていた。そのせいなのか王妃は疎ましく思っていると聞く。



「噂だけでは良く分かりませんわ」

「おまえもフルバードに会えば分かるさ」



 そう言い残してネスワルドは踵を返した。部屋に入るとアルテミシアは後ろを振り返った。背後には影のように付き従っていた護衛のノクティスがいた。彼は以前見た目の良さに女性から言い寄られて散々な目に合ったとかで、アーシア以外の者には、凡庸な男の姿に見えるように魔法をかけていた。その為、彼を連れ歩いていても誰も気にする者はいなかった。



「ノクはフルバード殿下に会ったことはある?」

「一度も会ったことはないな」

「直接、お会いすることがなくとも、公式行事などで顔を合わせる機会などないの?」

「我は面倒な行事には、遠方故で断りを入れていたからな」



 ノクティスはこの国ではアイオライト公爵として認知されているが、人間嫌いで偏屈な人物と称されていた。なかなか公式の場に姿を見せないことで、勝手に噂が出回ったようだ。ふと思う。もしかしたらフルバード殿下もノクティスと同じように、勝手に噂が一人歩きしているのかも知れないと。

 気になるフルバード殿下だが、その彼とは思いがけない場所で出会うこととなった。



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