23話・二人の王子に毒を盛ったのは
「嘘よ。そんなこと聞いていない」
「父上は王妃さまや母上は自分の息子を王にすることだけに目を向けて、その先を見ていない。だからお前達が正せと。それなのに……」
ハバルはオルテンシアを、キッと睨みつけた。息子にそのような目を向けられるのは初めての事だった。アーシアにとっては、父王が王子らに告げたと言う言葉は詭弁にしか思えなかった。慕っていた兄を害されたハバルの心情は分からないでもないが、女同士の諍いを生んだ元凶である王が、何を言っているのかと呆れた。
「母上は2年前の新年を祝う会で何をした? ルーディー兄さまと、ウィルマー兄さまに毒を盛ったな?」
「知らないわ。二人ともその夜会の後で具合が悪くなって体調を崩していたじゃない? それがどうして毒を盛ったことになるの?」
「調べはついている。母上が買収した給仕達が証言した」
オルテンシアは痺れる体で無視を決め込もうとしたが、ハバルが懐から出した小瓶を見てしまっては黙っていられなかった。あれは解毒薬だ。あれがないと自分は──。
「お願い。それを早く……!」
「ルーディー兄上さまと、ウィルマー兄さまに毒を盛ったのは?」
「知らないわ。早く!」
「兄さま達に毒を盛ったのは?」
「わたくしじゃな……」
息子は白状させようと揺さぶりをかけてくる。認めるわけにはいかないが、ハバルもそう簡単には解毒剤を渡してくれそうになかった。どうしようか? と、思っていると、彼はそれを思い切り振り上げた。
「こんなもの──っ」
「止めて──! そうよ。わたくしよ、わたくしがやったわ!」
「……」
解毒剤欲しさに言葉が付いて出た。命は惜しい。その気持ちが白を切る予定だった思考を超えて口から出ていた。もうここまできたら正直に話すしかないだろう。観念することにした。
「あの時、本当は第三王子殿下、ウィルマーさまを狙っていたのよ。王妃は次期王として彼を押していたから。それで彼に毒の入ったグラスを渡すように給仕に命じたわ。でも──」
「それをルーディー兄上に、気が付かれた?」
「そうよ。第二王子殿下は薬草学を志していると聞いたから、果実酒に混ぜ込んだ毒の気配に気が付いたのでしょうね。ウィルマー殿下に差し出されたグラスを、喉が渇いたからと先に飲んでしまった」
「それで再び、今度はウィルマー兄上に?」
「本命はウィルマー殿下だったから。彼が部屋に戻って就寝時に嗜む果実酒に、仕込むように手配したの」
「そのせいで二人は──」
「仕方なかったの。こんなこといけないことだと分かっている。でも、あの王妃は蛇のようにしつこいのよ。あなたの命を狙い続けるし、交わし続けるだけで……、もう、止めて欲しかった。だから止めを刺すことにした」
告白内容にハバルの顔がどんどん歪んでいく。息子は純粋に兄王子達を慕っていた。彼らは表向き仲が良いように思っていたが、実際には強い絆で結ばれていたようだ。それを引っ掻き回したのは、王妃と自分の醜い自分の息子を何としても次の王にするという欲望に違いない。でも、もしかしたらここで自分が一歩引いていれば、王妃も強固にこちらを攻撃してこなかったのではないかと、今更ながら後悔が押し寄せた。
息子にそんな顔をさせる気はなかったのだ。
「どうしてアルテミシア姉上に毒を盛るような真似を?」
「陛下やあなた達にちやほやされる彼女が許せなかったのよ。嫉妬したのよ」
「そのような理由で? 父上はあんなにも母上のことを大事にしていたのに」




