22話・自業自得
「オルテンシアさま。顔色が悪うございますが、どうなさいました?」
「ど、毒よ。クッキーに毒が……!」
「何をおっしゃっておられるやら。今日の王女殿下の訪れを楽しみにして、朝からクッキーをお焼きになられていたのは、オルテンシアさまではないですか?」
侍女はにんまりと笑った。その笑みを見て、オルテンシアはかつて彼女の息子が、自分息子の毒見係を務めていて、亡くなっていたことを思い出した。今回はアルテミシアが倒れた後に、彼女が盛ったことにする予定でいた。
──嵌められた! この女!
「お、おまえ──」
怒りが苦しみを凌駕した。侍女にしてやられたと頭に血が上る。恨み声をあげると、すかさずアルテミシアが応えた。
「彼女は何もしていないわ。あなたがお茶を入れている間に、あなたのお皿とわたくしのお皿を入れ替えただけ」
「……!」
いけなかった? と、アルテミシアはふわりと微笑んだ。その眼は笑っていない。アルテミシアはこのような女だったろうか? 普段は綿菓子のように甘い思考で深く考えもしないのに、別人のようにしか思えない。
──まさか……?
そこへ息子のハバルがやってきた。
「母上」
「ハバル……」
愛息子の登場に、オルテンシアは助けが来たと思った。手足を始め体が痺れて思うように動けない。クッキーに持った毒は即効性のものではないが、そのままにしていては数時間後に命を奪うのは明らかだった。
「助け……て。ハバル。解毒剤がわたくしの部屋の鏡台の上に……」
「自業自得だろう」
体は動けなくとも、口は動かせた。愛息子に助けを求めると、冷たい言葉が返ってきた。まさかと思いながら息子を凝視すると、嫌悪の視線とぶつかる。
「ハバ……ル?」
「兄さん達に毒を盛ったのは母上だよな?」
「それは──、あなたを王にする為よ」
「そんなこと俺は望んでいない」
「あなたを守る為には仕方なかったのよ」
オルテンシアは苦しみながらも、吐き捨てるように言った。王妃は自分を嫉んでいる。王の寵愛を受けていることに腹立たしさを感じている。このままだと自分の産んだ息子が王になれないと、焦りが出てきているのだろう。時々、暗殺を企ててきて何度、ハバルの命が狙われてきたことか。それを息子は知らないのだ。
「それはあなた達の勝手だろう?」
「何を言うの?」
「王妃さまとの争いを、俺達兄弟の仲に持ち込むなよ。俺たちは迷惑している」
「──!」
ハバルは母親達の命がけの攻防を、迷惑だと言い放った。その言葉にオルテンシアは頬を張られたような衝撃を受けた。
「誰のおかげで、あなたは生き延びてこられたというの?」
「それには感謝している。でも、こんなのは駄目だ」
「ハバル」
「母上達は勘違いしているが、俺達が皆、等しく王位継承者として教育を受けるのは、どの王子もその教育を通して、国の為に己が何をできるかを学ぶ為だ。歴代の王達も兄弟仲は良かった。だがその母親やその後見となる者達の派閥が、王子を自分達の都合の良い傀儡にする為に持ち上げ、ライバルとなる王子達を根絶やしにしてきた。父上も嘆いていた。女達の争いはこの国の未来を潰すと。自分の代でそのようなことは終わりにしたいと」




