21話・彼は始末されました
「彼は今どこにいるの? 叱ってあげます。殿下にそのようなことを言うだなんて。なんて失礼な」
「もういいの。構わないで」
「あなたはそれでいいの? あんなに──」
夢中になっていたじゃない。と、言いかけたオルテンシアの言葉を最後まで言わせずに、アルテミシアが被せてきた。
「彼はもうどこにもいないの」
「あなた達、別れたの?」
「オルテンシアさまは御存じかしら? 宰相さまには腕の立つ女従者がいて、彼女はライキと言うのだけど、彼はその彼女に始末されたわ」
オルテンシアは目を見張った。彼女にバレている。咄嗟にそう感じた。愚鈍なはずの王女は何もかも見通したような眼をしていた。
「ライキはある御方に命じられていたのよ。彼は口封じの為に殺された」
「何、馬鹿なことを言っているの? アルテミシア。今日のあなた、どこか変よ」
オルテンシアは、王女を直視した。変だ。あまり賢くないはずの彼女は、そのような物言いをしない。それに普段は侍女を連れ歩いているのに、今日は護衛を連れていた。全身黒づくめの男だ。大したことない装いで、特に目を惹く容姿でもないのに妙に存在感があった。
「あなた、どうしちゃったの?」
「どうもしていないわ。これがわたくし」
アルテミシアが微笑む。その青い双眸は笑っていない気がしてゾッとした。
「一体、誰の命でライキは動いていたのかしらね?」
「さ、さあね」
何だか追い込まれている気がして居たたまれない。
「そんなことよりも焼き菓子をどうぞ。あなた好きだったでしょう?」
話題を変えようと、彼女好みのチョコとバニラの二色のクッキーの乗ったお皿を勧めれば、迷わずアルテミシアは手に取った。
「今日は私、自ら焼いたのよ。上手く出来ていると思わない?」
「まあ、オルテンシアさま自ら? 凄いわ」
そう言いながらアルテミシアは、クッキーを持ち上げて眺め、口元に運ぼうとして止めた。
「どうしたの?」
「匂いがね……」
「匂い?」
クッキーには毒が含まれている。アルテミシアの大好きなチョコの中に混ぜ込んでいるから、絶対気が付かれないと思っていたのだけど、その異変を王女は感じ取ったようだ。
「食べたくないの?」
「そう言う訳じゃ……」
アルテミシアが食べるのを、迷っているように感じられる。オルテンシアは、自分の皿にあるクッキーを口にしてみせた。
「何も怪しくはないわよ。ほら」
口に入れた途端、違和感を覚える。舌がピリピリすると思えば、胸元が熱く感じられ激しい痛みへと変化した。胃の中の物がせせり出してくるような気がする。
「あら。どうかなさって?」
「あ……、あ……。ま、まさか毒を……?」
「わたくしは盛っていないわ」
「……?!」
目の前のアルテミシアは平気な顔をしていた。痛む胸元を抑え、目で信頼している侍女らを見れば、平然としていた。




