19話・我が番に手を出すとは万死に値する
「我が番に手を出すとは万死に値する」
「……!」
そう言ってノクティスが二本指で剣を捻ると、剣の刃先はバラバラと崩れ落ちた。ライキの手元には剣の鍔しか残らなかった。ノクティスのその行動は、ライキの闘争本能を完全に打ち消した。ライキは情けなくも刃を失った剣の柄だけを握りしめ、ブルブル震え出した。その彼女をどこからともなく現れた兵たちが取り押さえ、連れて行く。
「何者?」
「我はこの山の主。お前たちがアイオライト公爵と呼ぶ者」
ネスワルド王子の問いにノクティスが答えると、宰相が初めに膝を着いた。それに倣って王子以外の皆が跪く。アーシアは、宰相から聞いていたある話を思い出した。アイオライト公爵は、この国で偉大な魔法使いとして敬られているが、人嫌いでも知られている。滅多に領地から王宮に顔を出すことはない為、皆が勝手に想像して偏屈ジジイ等と言っていると、苦笑交じりに宰相が言っていたのだ。
しかし、この国では偉大な魔法使いは神に等しく、逆らっては命がないとも言われている。皆は神と等しい存在を前にして頭を下げた。
「ノクティス。あなたアイオライト公爵だったの?」
「気が付かなかったのか?」
全く気が付いていなかったアーシアは、ノクティスの服の袖を引いて訊ねる。彼は顔を寄せて逆に聞き返してきた。その前でネスワルド王子が声を上げた。
「これは失礼した。アイオライト公爵にご挨拶申し上げる。余はこのヴィジリタス国第一王子のネスワルド。そこにいるのは……」
「紹介はいらぬ。知っておる。何せ、我が求めた相手だからな」
「何と! アーシアの方でしたか」
ネスワルドが大げさに驚いたふりをする。ノクティスは呆れたように言った。
「白々しい。そなたは何もかも知っていて、そなたらの事情に我とアーシアを巻き込んだな?」
「罰はいかようにもお受けいたします」
「どういうことなの?」
二人の話が見えないアーシアは首を傾げた。
「こやつは我が王宮へそなたとの婚姻を望んでいる旨の書状を送ったのに対し、アルテミア王女との婚姻を勧めてきたのだ」
「だからなのね。アルテミシア殿下は、顔も見たことのないアイオライト公爵との婚姻を勧められて、それを嫌がってここに来た」
アルテミシア王女は、好きでもない男の元へ嫁がせられるのは嫌だと言っていた。それがノクティスのことだったらしい。でも、ノクティスはアーシアを望んでいたようなのに、ネスワルドの態度から見るに、わざとアルテミシアに縁談話を振ったように思われる。アーシアと目が合い、言い訳のようにネスワルドは言った。
「オレスと引き離す為だ。あれは寵妃の手の者だった。アルテミシアは嫌がるだろうが、公爵との縁談話が持ち上がれば、オレスの方から引き下がると思っていた。済まなかった」
ネスワルド殿下が頭を下げてきた。王族は滅多に頭を下げることはないと聞くからこれは異例だ。殿下はアルテミシアと親しくしているオレスが、寵妃の息のかかった者と知り警戒していたようだが、まさかその二人が離宮に逃げ込むとは思ってもみなかったのだろう。
「そなた何かあるだろう?」
他にも隠していることがあるのではないかとノクティスに問われ、ネスワルドは宰相と目を合わせた後に語り出した。




