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18話・危機一髪



「殿下方は斬らせぬ」

「オルテンシアさまのお望みは、第五王子殿下が王になること。それを阻む存在は誰であろうと始末するよう命を受けております」

「ライキ、止めろ」

「参ります」



  止める宰相の言葉を聞き流し、彼女はユコダに斬りかかった。それを受け止めたユコダは力強く押し返す。一線は退いたとは言ってもさすがは王宮護衛長だった男だ。一歩も引かなかった。



「さすがは先生、容易には斬らせてもらえないようですね」

「そなたはわしの教えた中でも優等生だった。こんな形で対峙するとは思わなかった」


 彼女はユコダに躊躇いなく、剣を突き出していく。ユコダは突き出される剣を受け止めながら、相手に攻撃していく。二人の剣が切り結ぶのをアーシアは、乳母とハラハラして見守っていた。その脇では殿下を庇うように宰相が立ちはだかっている。

 ライキとユコダは剣を合わせては、互いに譲れない姿勢を取っていた。二人は命がけで攻防を続ける。決死迫った状態で他の声など聞こえるはずもないのだが、宰相は叫んだ。



「ライキ──! 止せ!」



 宰相の必死の声がライキを揺らしたようで、彼女はほんの一瞬、目を逸らしたがそれと同時にアーシアを見た。ユコダに剣を突き出し、それを彼が交わしたところで彼女は一歩踏み出し、アーシアに狙いを定めた。



「「姫さま、危ないっ」」



 ユコダと乳母の声が重なる。身動き取れないアーシアは、これで自分の人生も終わったと思った。今までの出来事が走馬灯のように頭の中を過って行く。物心ついた時に、離宮の庭に現れたウサギの親子を見て「どうして自分には母親がいないの? 寂しい」と、泣いて乳母を困らせたこと。宰相に家庭教師を付けられて、初めは勉強なんてしたくなくて逃げ回ったこと。


 家庭教師から逃げて庭の隅で隠れていると、乳母に見つかって宥められて渋々勉強をすれば、その後で「よく頑張りました」と、褒美の飴玉を貰ったこと。飴玉欲しさに勉強を頑張ると、乳母が大げさなくらい「私の姫さまは賢い」と、褒めて喜んでくれた。

誕生日になると、宰相から大きな箱が届いてその中にはドレスや、靴や帽子が毎年、贈られてきた。庭師のお爺ちゃんは花束を貰い、料理長には誕生日ケーキと焼き菓子、滅多に食べられないステーキが用意されて、乳母からは髪飾りを、他の使用人達からは誕生日を祝う手書きのカードを貰ってきた。それらは今も自分の宝物箱に入れて大切に取ってある。


 ここの離宮の使用人達は、アーシアが王女であることを知っており、それなりの礼儀を弁えた態度で接して来るけれど、家族を知らないアーシアにとっては、彼らを家族と言うか仲間のように大事に思っていた。

 


──20歳までの命と思っていたけど、それまで持たなかったわね。



 ふいに脳裏にノクティスの顔が浮かんだ。ここで命を落とすくらいだったら、もったいぶらずにさっさと彼の誘いに乗るべきだった……。と、思った時だった。視界を黒いものが横切ったと思ったら、自分の前に壁のように立ちはだかった。



「これは死なせぬ」

「──! ノクティス」



 いま、頭に思い浮かべた彼がアーシアの前に立ち、ライキが突き出した剣を指二本で受け止めていた。皆が驚愕していた。


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