17話・寵妃オルテンシアの間者
「お許しください。第一王子殿下」
「オレス。一体どうしたの?」
急にオレスがその場に跪き、隣にいたアルテミシアはきょとんとした表情で見ていた。皆が彼に注目していた。
「今回のことはある御方に命じられたのです。その御方は──」
そう言いながらオレスは縋るように王子を見上げて、白状しようとした。ところが宰相の後ろから進み出た女従者が剣を抜いて斬りつけた。即死だった。誰も止めようがなかった。乳母は悲鳴を上げ、アーシアの護衛ユコダは眉根を寄せた。
「きゃああああっ」
「ライキ!」
「申し訳ありません。この者が刃物を取り出すのが目に入ったので」
「オレス! オレス! オレス……」
女従者ライキがそう言った後、倒れたオレスの懐から小刀が転がり落ちた。アルテミシアがその小刀を拾い上げようとした途端、斬られた。自分の身の上に何か起こったのか理解しがたい顔をしながら、アルテミシアはその場に崩れ落ち、オレスの上に重なった。
「アルテミシアっ」
「いけません。あの状態ではもう手遅れです」
アーシアが彼女の側に近づこうとしたが、それをユコダに止められた。彼は帯剣に手をかけた。
「そなた、誰の間者だ?」
第一王子は突然の妹姫の死に、苦痛の表情を浮かべながらも、ライキを見据える。その言葉に宰相は顔色を変えた。宰相はライキを護衛として重用していただけではなく、彼女とは個人的に親しかった。二人は恋人同士だったのだ。二人の交際は長いが結婚しなかったのは、宰相が高位貴族で、彼女が平民という身分差があった為だ。それでも共にいられれば良いと、宰相は結婚せずに彼女と交際し、自分の側に置き続けていた。
「ライキ。そなたは私を利用する為に近づいたのか?」
「それが主の命でしたから」
その言葉にはそうあって欲しくないという、宰相の願いが込められているように感じられた。ライキは素っ気なく答えた。アーシアは彼女の変わりように驚いた。離宮に来る宰相と彼女は、羨ましく思われるほど仲が良かったのだ。それが全くの演技だったとは思いたくない。そのライキは恋人だった宰相の事よりも、老練の護衛ユコダの存在が気になっていたようだ。
「まさかここで先生と再会することになろうとは……」
「ライキよ。そなたの仕える主人とは、寵妃オルテンシアさまか?」
何やら不穏な言葉が飛び出した。ユコダの若かりし頃は、王宮護衛隊の隠密部隊として活躍していたと聞く。アーシアが生まれる前には定年を迎え、引退前に若手を育てていたと聞いていた。ライキはその生徒だったようだ。ユコダはゆっくり剣を引き抜いた。
「そなたの答え次第では斬る」
「答えはすでに出ているではないですか? 先生」
ライキはこの件に寵妃オルテンシアが関わっている事と、自分が寵妃の手の者だと認めた。




