16話・入れ替わりを提案されました
6日後。知らせを受けた宰相が迎えに来てくれた。でも、彼には普段連れている女性従者の他に、もう一人同行者がいた。長身に金髪、こちらを冷たく見る青い目。宰相とは親子ほどの年の差を感じるその同行者の男性は、アーシアやアルテミシアと顔立ちが似ていた。これが同腹の兄王子ネスワルドなのだろう。確か今年で23歳になると聞いていた。アーシアはこの時、初めて兄となる人と対面した。アーシアは乳母と、現役からは遠のいている護衛のユコダを連れていた。ユコダは左頬に大きな切り傷が残されているせいか、あまり人前に出ることはなかった。
「ワルド兄さま。ごめんなさい、あたく……」
顔を見るなり、駆け寄って話しかけたアルテミシアを彼は無視した。彼はアーシアを見た。
「おまえがアルテミシアの片割れか?」
「はい。アーシアと申します。初めてお目にかかります。ネスワルド殿下」
アーシアのカーテシーを見て、ネスワルドは満足そうに頷いた。
「ふん。これよりは物の道理が分かっていそうだ」
彼の自分を品定めするような目つきに、アーシアは屈することはなかった。元から家族とは思っていないし、彼らには期待していない。ネスワルドがどう思うが思うまいが、自分は自分だという思いでいた。
「アーシア。おまえがこれの代わりに嫁げ」
「殿下」
宰相がその一言を聞いて、止めようとした。乳母は思い切り顔を顰める。護衛のユコダは黙って話を聞いていた。アルテミシアは「さすがは、兄さま」と、喜んで胸の前手を叩く。
「それが良いわ。あたくしにはオレスという愛する人がいるし、アイオライト公爵はあなたにあげる」
「父上は選択を間違えたな。今日からお前たちは入れ替わって生活すればいい。アーシア、おまえは今日よりアルテミシアとして生きよ」
アルテミシアは嬉々として言ったが、アーシアはあまり良い気がしなかった。アイオライト公爵のことをまるで物のような言い方で、簡単にあげるというアルテミシアに好感は持てない。人は物ではない。そのアイオライト公爵だって、いきなり相手が変わってどう思うことか、その辺りも配慮できないほど、アルテミシアはオレスに入れ込んでいるらしかった。ネスワルドはアルテミシアを、冷たく睥睨した後で、アーシアに命じるように告げた。その言葉でアーシアは、彼は王家が生贄を捧げて来た事情を知っているのだと察した。
「ありがとう。ワルド兄さま」
「礼を言われる筋合いはないが、せいぜい20歳までオレスとここで、仲良く暮らすのだな」
「20歳までって、どういうこと?」
「それまではここで暮らせるが、後は自分達でどうにかするが良い。命が惜しければな」
「分かったわ。それで構わないわ。あとはオレスがいればどうにかなるもの。ね、オレス」
兄王子のいう言葉の意味にも気が付かず、アルテミシアは無邪気に喜んでいた。王女として生まれ王宮で甘やかされて育った彼女には、それがどういう意味か分かっていないようだ。兄のネスワルドは生贄としてアーシアではなく、彼女を捧げようとしているのに。「どうにかするが良い」と言う言葉には、逃げでも構わなそうな意味合いを感じるが、果たしてそれにアルテミシアは気が付いているかどうか……。
オレスは兄王子の不審な言葉に何かを感じたのか青ざめていた。そしてその場に跪いた。




