15話・いつかあなたの国へ行ってみたい
「興味があるのか?」
「ええ。見てみたいわ」
好奇心に輝く瞳を向けると、ノクティスは困ったような顔をした。
「我は大きいぞ。見たらそなたのような可憐な娘は気を失うかも知れぬ」
「巨大なの? 色は何色? 黒竜かしら?」
ノクティスは濃紺の髪に金色の瞳を持つ。そこから想像したのは黒い竜だった。
「見せて。お願い」
「仕方ない。気を失うなよ」
そう言いつつ、ノクティスは手を放した。アーシアから距離を取ると姿が変わった。瞬きする暇もなかった。一瞬だった。
「凄い! 大きいわ」
そこには宵闇色の竜がいた。アーシアは胸の高まりを感じながら近づいた。自分の住む離宮よりもはるかに大きく、星空に届きそうなほどその存在は大きかった。
「触れてもいい?」
「構わない」
宵闇色の竜は、アーシアが触れやすいようにその場に座り込んだ。手足を折り込んで、体の下にしまい込む。その姿が猫のように思えてアーシアは可愛く思った。
「案外、硬いかと思ったけどそうでもないのね」
「普段はそうでもない。害がある時は変化する」
鱗は魚の鱗を思わせた。てっきり岩のような固さがあるかと思ったがそうでもなかった。
「そなたの肌を傷つけてはいけないからな」
「つまり感情によっては、硬い鎧にもなるってこと?」
「その通りだ」
「なんて素敵。惚れ惚れしちゃう」
「では我の嫁になるか?」
ノクティスの鱗を撫でていたアーシアは、現実に引き戻された。
「あなたはわたくしのことが好きなの?」
「そなたはそうではないのか?」
自分の気持ちが相手にバレバレだった? アーシアは恥ずかしく思った。この気持ちをノクティスには、ばれないように接していたつもりだけど、いつから彼は知っていたのだろう?
「そなたは我の番だ」
「番?」
「竜人には一目で惹かれあう存在がある。それが番であり身も心も惹かれあう。想いは一方通行ではなく、通じ合う」
「わたくしがあなたの番なんて、素敵ね」
人間でさえ、好意を持つ相手に想いが通じるかどうか微妙なのに。竜人のようにお互い惹かれあうならば、竜人には先祖のように横やりするような無粋な輩はいないのだろう。そう思った時に先祖に対し違和感を覚えたが、ノクティスへの想いが凌駕してそのことは直ぐに忘れた。
「いつかあなたの国へ行ってみたいわ」
それが今のアーシアの立場で言える答えだった。ノクティスにはその想いは伝わったようで、肩に彼の手が回ったと思ったら彼は人間の姿に戻っていた。その晩は夜が明けるまで二人で寄り添って過ごした。




