14話・あなた人間ではないの?
「ありがとう。ノクティス。ここに連れて来てくれて」
「喜んでくれたなら幸いだ」
「嬉しいわ。本当にありがとう」
「そんなに喜んでくれるとは思わなかった」
「こんなに綺麗なもの初めて見た」
アーシアは王女ではあるが、自分の持っている物はそう多くない。昼間、押し掛けてきたアルテミシアと、オレスはそれぞれ客間に通したが、思ったことをそのまま口にしてしまうアルテミシアには不評だった。
使用人達については「爺と婆しかいない。暗いわ。お葬式みたい」と、言われ、案内した部屋については「これが客間? 地味ね」と、言われたし、着替え用に自分のまだ袖を通していないドレスを貸し出したら、「今時、このようなドレス、下位貴族の令嬢でも着ないわよ」と、言われた。しまいに「宝飾品が何もないの? ティアラは?」と、言われてしまった。彼女曰く、王女のティアラは生まれた時から用意されているもので、身分を証明し立場を明らかにするものだ。それがないなんて本当に王女なのか?とまで言われてしまった。
同じ母親のお腹から生まれた相手だと言うのに、言葉の端々から育ちの違いを感じ取ってしまった。アーシアは、自分でこの生活を望んだ訳ではない。父親から勝手に決められたのだ。20歳になったらガーゴイルの生贄として捧げろだなんて、父王には死ねと言われたようなものだ。
父王は自分には何も与えない一方で、妹は色々と与えていたようだ。宝飾品やティアラだなんて、乳母の話でしか聞いたことがない。乳母がその話題を口にするときは、決まって「お可哀そうな姫さま」と、さめざめと泣くことが多かった。乳母としては一国の王女として生まれながら、宝飾品の一つも父王から贈られなかったアーシアが哀れに思うらしかった。
ささくれだっていた心が、この見事な竜胆の花で癒されていくような気がした。隣に立つノクティスがどうした? と、聞いてくる。アーシアは昼間訪ねてきた妹姫とのことを話して聞かせた。
「妹の育った環境に嫉妬したくなったの。駄目ね。わたくしは。叔父である宰相には、国民の中には生活が貧しくて毎日の食事にも困っている者達がいる。と、聞かされていたから、お金をかけて暮らすことが正しいこととは思えなかったのだけど、彼女に王女だというのにティアラの一つもないのかと言われて……」
悔しく思ったのとアーシアは本心を吐露した。ティアラは王族の証。いずれ死にゆく自分には与えてもらえなかったのだと言えば、ノクティスは静かに問いかけてきた。
「欲しいか?」
「ティアラが王女である身の証だと知らなければ、欲しいなんて思わなかった。でも、知ってしまったら、欲しくなってしまったの」
「では、我が与えよう」
「えっ?」
「そなたに相応しいティアラを用意させる」
「そんな、悪いわ」
「誕生日プレゼントに贈ろう」
誕生日と聞いて、アーシアの顔は曇った。次の誕生日がくれば19歳となる。そうなると20歳まで一年しかない。誕生日が来るという事は、アーシアの死ぬ日が早まることを意味している。
ノクティスは歴代の王族の生贄たちは、本当に殺されたのではなく、追放処分になったか、逃げおおせたのではないかと言っていたが、父王はそのような裏事情まで読んでいるようには思えなかった。
「我の元へ来るか?」
ぽつりと紡がれた言葉に、顔を上げれば金色の瞳がこちらを見ていた。瞳孔が細く縦長になっていた。
「あなた……、人間ではないの?」
「我は竜人だ」
ノクティスの言葉に驚きはしなかった。何となく人間離れした美のようなものを感じていたし、もの言いや行動が王族を超えた存在に思えていたから。
「だからわたくし達、王族に関しても詳しかったのね?」
「我を怖いと思うか?」
「全然、怖くないわ」
そうだわ。と、アーシアは思った。ノクティスが竜人ならば、竜の姿を取れるはずだ。その姿はどのようなものか興味が湧いた。
「あなたのその姿は人間を模したものよね? それなら本体はどんな姿なの?」




