13話・竜胆の花の群生
その晩。寝付かれずにベッドから起き上がって窓の外を見れば、月の明かりが煌々と差していた。天井から床まで届く窓のカギを外してそっと押して、バルコニーへと出ると、新緑と花の香りがそよ風に乗って伝わってきた。
アーシアが住むこの離宮は、中庭を囲むように婉曲して建てられている。中庭に花壇というものはなく、自然の野の花たちが群生している。その中でも幅を利かせているのが竜胆で、彼女はその花が一番、気に入っていた。
その花の側に一人の男が立っていた。
──ノクティス!
彼の姿を認めて、弾けたようにバルコニーから中庭へと続く階段を急ぎ駆け下り、彼の元へと急ぐ。月の光を浴びた彼は、月神のように神々しく美しく思われた。
「ノクティス」
「何だ? まだ、起きていたのか?」
彼はアーシアに気が付くと、素っ気ない口調で出迎えた。久しぶりに会ったというのにと、誰ともなく呟けば、月の光がそれに応えるように陰ったような気がした。
「あなたこそ、何をしているの?」
「……そなたが森に来ないから、どうしているかと気になっていた」
「なかなか森には行けなかったのよ。わたくしの双子の妹が訪ねて来てから、警備が厳しくなってね。散歩に護衛を連れていかないと行けなくなったの」
ノクティスとは、いつも二人きりで会っていた。今まで森の中を散策するのに護衛がいなくても自由に行き来出来ていたが、それが出来なくなった。護衛を連れて歩くなんて監視されているようで嫌だし、ノクティスの存在を知られたなら、次からは気軽に会えなくなるような気がしていた。
「今宵は満月だぞ」
「そうね。綺麗ね」
空を見上げる彼の側に寄り添うと、手を取られた。
「行こう」
「どこへ?」
彼に手を引かれてガーゴイルの森へと入り込む。森の住人たちは深く眠り込んでいるようで静かだった。暗い森に少しだけ恐れのような気持ちを抱きながらも、ノクティスに手を引かれて向かった先は、森の奥にある開けた場所で、そこには月の光を浴びた沢山の竜胆が群生していた。
「そなたが好きな花だろう?」
「良く知っていたわね?」
「そなたはよく竜胆を見ていた。だから好きなのだろうと思っていた」
「そうよ。わたくしはこの花が大好きなの。でも、いつの間にこんなに咲いていたの?」
単独で咲いていたような花がこの場所いっぱいに広がっている。しかも色もそれぞれ違うような気がする。
「それは作ら……。あ、きっと日が当たる場所だし、自然と広がったのだろうな。これを見せたかったのだ」
「すごい。こんなの見たことがない。素敵~」
ノクティスは何かを言いかけた気がしたが、竜胆の花の群生なんて見たことが無かったアーシアは感動した。




