11話・あなたって冷たいのね
「ねぇ。お願い。助けて! ねぇ、中にいるのでしょう? アーシア!」
「後生です。お願いします!」
この間、宰相に引き摺られるようにして去って行ったアルテミア王女と、オスティック伯爵の子息が離宮の門前で叫んでいた。今回はアーシアが外出しようとしたときに居合わせたのではないので門扉は固く閉ざされていた。宰相から注意が入ったようで、今まではアーシアが森に出る際には許されていた開門が、護衛付きではないと出られないようになっていたし、誰が来ても取り次がないようにされていた。今までが緩すぎたのだ。仮にも王女とは言っても、世の中に取り残されたように生きる王女の元を、誰かが訪れることを想定していなかったのもある。それなのにアルテミシア王女の不意打ちの来訪を知り、宰相は危惧したらしかった。
そこへ王女は再びやって来た。
「お願いよ。アーシアに会わせて。会わせてくれるまでここを動かないわ」
面倒な言葉に、警備の兵からどうしますか? と、お伺いの言葉が回ってきた。アーシアは厄介ごとが再び……と、思いつつも拒めなかった。とりあえず宰相に知らせをやり、彼らを保護することにした。彼らを放置して何かあれば寝覚めが悪い気がしたので。詳細を聞く為に、アーシアは応接間に二人を通した。
「一体、何用ですか?」
「あなたはあたくしの姉さまなのでしょう? しばらく匿って欲しいの」
「はあ? どう意味ですか?」
「あたくし、政略結婚で大魔法使いのアイオライト公爵とか言う、顔も見たことない相手に嫁がされるかもしれないの」
だから逃げてきたと、アルテミシアは言った。
「それで?」
「相手は結構、年上のお爺さんと聞いているわ。あたくしにはオレスという真に愛する人がいるのに、突然ワルド兄さまがその公爵の元へ嫁げと言い出したのよ。酷くない?」
「でも、王家の王女として生まれたからには、政略結婚は当たり前でしょう? 個人的感情でそれを嫌がるのは方々に迷惑をかけるのでは?」
アーシアの言葉に、アルテミシアは面白くない顔をした。きっと同意して欲しかったのだろうけど、アーシアはそんな気持ちにもなれなかった。
「あなたって案外、冷たいのね。実の妹が困っていると言うのに」
「では帰られますか? 馬車の用意をさせましょう」
「あ、そうではなくて……」
アルテミシアが目線を泳がせ、助けを求めるようにオレスへと目をやる。オレスが彼女に変わって懇願してきた。
「アーシアさま。どうかお願いです。しばらくここに置いて頂けないでしょうか?」
「宰相にいま、知らせを送りました。迎えが来るまでの滞在なら許可いたしましょう」
王宮からここまで片道馬車で三日くらいかかる。知らせを今、送ったのでそれが宰相に届いて、慌ててこちらに迎えの者が来るまでに往復一週間くらいかかるだろう。オレスに一週間くらいなら置いてあげると言えば、彼の隣の席に着いているアルテミシアが睨みつけてきた。
「何故、宰相に知らせるのよ。いま、王宮から逃げてきたって言ったじゃない」
「わたくしは、あなたの頼みを聞く筋合いはありません」
「酷い」
自分と同じ顔をした人物が、己の意のままにならないと、非難してくるのに苛立ちを覚えた。




