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9話・厄介者の暴挙


「その高貴なお方が何故ここに?」


「宰相が何度かここへ足を運んでいると聞いたのよ。ワルド兄さまは放っておけと言ったけど気になってね。あの生真面目で堅苦しい宰相は結婚もしないでいる。その宰相が通うくらいだから、誰か女を囲ってでもいるのではないかと思って来たけど……、驚いたわ。あたくしと同じ顔の女を囲っているなんて。気味が悪い」


「姫さま。帰りましょう。ここにいては汚れます」

「そうね。叔父上の女が、あたくしと同じ顔をしているとは思わなかったわ」



 アルテミシア達の会話を聞いて、彼らは誤解していることに気が付いた。彼女達はアーシアの素性を知らないばかりか、叔父上の愛人と思い込んでいた。



──馬鹿な人達。



 自分の双子の片割れの存在を宰相から聞いていたが、宰相はアルテミシア王女について我儘で短絡的だと言っていた。



「さあ、アーシアとやら、あたくし達が王宮に帰る為の馬車の手配をなさい」

「そうだ。さっさとしろ」



 厄介者は勝手に押し寄せてきた挙句、王宮に返せと命じる。自分の双子の片割れのこの態度に、アーシアは呆れ果てた。幼い頃は自分と同じ容貌をした彼女に興味を抱き、いつの日か会ってみたいと思っていたが実際、会ってみたら失望しかなかった。こんなに期待外れの存在になっているとは思わなかった。彼女の言った『ワルド兄さま』とは第一王子のネスワルドのことに違いない。


 ネスワルドは、自分達と母親を同じとする兄だ。前王妃が産んだ初めの子。宰相がこの山に足を運ぶことについて聞いた妹のアルテミシアに、放っておけと言ったということは、彼はガーゴイルの生贄として提供されたアーシアのことを、何かで知っていたのかも知れなかった。



──しかし、わたくしが宰相の女とはね。彼女に失礼だわ。



 彼女の頭の構造はどうなっているのだろうか? 実にお粗末としか言えない。宰相はある事情で婚姻していないだけだ。アーシアでさえ気が付けることを彼女は知らない。密かに第一王子くらいは、まともに育っていることを願うしかない。


 国王から打ち捨てられたような離宮に住むアーシアでも、王宮がきな臭いことになってきているのは知っていた。王宮には亡き前王妃が産んだネスワルド王子とアルテミシア王女。亡き側妃が産んだ第二王子、現王妃の産んだ第三、第四王子、寵妃の産んだ第五王子がいるが、第二王子と第三王子は病死したとされている。残る第一王子と、第四王子、第五王子の間で後継者争いが起こっているらしい。

 そのような状況の中、暢気にここまで足を運んだアルテミシア王女の気が知れなかった。


「さあ、さっさとなさい」

「アルテミシア殿下っ」


 どうしようかと思っていると、この場に話題に上がった宰相が駆け付けた。数十名の護衛達と共に慌ただしく駆けつけて来る。普段、人目を避けてこの離宮にやってくる宰相はアーシアの存在を公に出来ない為、わずかな供しか付けて来ないのに、失踪した王女の行きつく可能性のある場所をしらみつぶしに捜して来たのだろう。目の下は隈ができ、連れて来た護衛と共に疲労が感じられた。王宮から離宮に来るのに片道三日はかかる。


 アルテミシアとオレスの二人は身綺麗な様子からそれ以上、前から王宮を抜け出し、暢気に旅行気分でここまで来たに違いなかった。

 アーシアの存在は陛下と一部の者しか知らない秘密事項だ。後で護衛達には、かん口令が敷かれることだろう。



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