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星脈のネクサス ──その愛は兵器か──  作者: RIOKA
Season2〜The King's Gate〜
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CHAPTER 38 魔の海域の守り神

 



【惑星Dahlia 南部 Elios】




 ルークは、ベッドに座り、静かに目を閉じていた。

 星脈をつうじて、リラの気配が流れ込んでくる。

 その姿が見える。


 山間の緑に囲まれた一軒家にいる。

 そばに、優しい目をした老婆と、キジ猫が見えた。


 〈ずっとそばにいる。きみを守ってるから、心配しないで〉


 リラはルークの声に応える。


 〈わかったわ、ルーク〉


 ただ、何者かが温泉のオーラに紛れて存在している。

 悪意は感じないが──



「ルークさま、着替えをお持ちいたしました」


 ドアの外から清らかで高い声がした。


「いいよ、入って」


 長老の孫娘のアイラだ。


「失礼いたします」


 ドアが開き、姿を現した。


 透きとおるような白い肌。

 一つに束ねた白銀の長い髪。

 シルバーの瞳。


 アストラ族は、テラ族より身長が高い。

 アイラもゆうに百七十センチ以上はあるように見えた。

 まるで神話に出てくる種族のように美しい。


「こちらに置いておきます」


「ああ、いつもありがとう」


 ルークは長老の家にやっかいになっていた。


 ここにはわずか三十人のアストラ族が、二十八年前のEliosの消滅から逃れ、息をひそめて暮らしていた。


 彼らはダリス族から身を隠し、この島を開拓して守り抜いてきた。

 〝王〟の訪れを待ち続けて。


 そこに、ルークは漂着した。


「ルークさま、あの……」


 着替えを置いたアイラは、ためらいながら何か言いかける。


「なんだ」


「お祖父《じい》さまが……ルークさまのお(・)相(・)手(・)をしろと……」


 ルークは呆れた。


 何考えてるんだ……こんな年端もいかない子に。


「オレの相手はスピカだけで十分だ。きみはもっと年齢に合ったことをしないと」


「私の年齢に合った?」


 ここは原始的だ。

 生活に必要な道具や文化を産み出すことはできるが、〝社会〟というものが小さすぎる。


 三十人だけの世界。

 学校も店もない。


 女は年頃になれば子を産む。

 それが当然とされている。


「何か、勉強したいこととかないの?」


「勉強……ですか? 本は好きです」


 アイラは遠慮がちにそう答えたものの、すぐに義務感を持った態度に改まった。


「ですがわたくし達は、子を産み、育て、アストラ族を絶やさないようするのが、いちばんの使命ですので」


 十七歳という、普通なら遊び盛りの年頃の子が、あたりまえのようにそんなことを言うのが不憫《ふびん》だった。


「わたくしは、ルークさまにお仕《つか》えできることが幸せです」


 アイラはそう言って笑みを見せた。


 ルークは机の上に置いた何冊かの本に目をやる。


「じゃあ……ほかにお薦めの本があったら、持ってきてくれる?」


 アイラはほんの少し、ほっとしたような表情を見せ、頭を下げた。


「かしこまりました」


 そして静かに部屋を出ていった。


 ルークは、机の上の古文書『King's《キングス》 Gate《ゲート》』を手に取り、パラパラとめくった。


 長老に、アストラ族の王として最低限読んでおかなければならない重要な本だと言われている。

 暇なので、ひととおりザッと目はとおしたが、神話のような話ばかりで頭に入らない。


 《王は天の道が開く日に星を渡る》


 いきなりそんな文で始まる。

 そしてこう続く。


 《天路《てんろ》の旬が、王が天を渡る唯一の季節とされる》


 天路の旬……

 長老もそう言っていたな。

 まるで何か、食べ物の旬の話でもしているようにしか思えない。


 さらに下へ読み進むと、問題の一文が出てくる。


 《王の門は聖なるEliosの地で二十八年に一度開く》


 これが、二十八年に一度の大イベントというやつだろう。


 二十八年前──惑星Eliosは消滅し、アストラ族は滅んだとされた。

 特別な期間とされ、恐れられるのは無理もないかもしれない。


 事実、自分が生まれたのは紛れもなくその二十八年前だ。


 れにしても──


 この日を迎えるにあたり、自分の孫娘に王の跡取りを孕ませようという長老の目論見《もくろみ》は、なんとも原始的でえげつない。


 絶対に乗せられてはいけない。

 オレはEarthの医者だ。

 妻はテラ族のリラだ。


 ルークは強く自分にそう言い聞かせた。



「バゥ! バゥ!」


 ルークの耳にスピカの鳴き声が届いた。


 ルークは古文書を閉じて机に戻し、カーテンを開けた。


 今日もよく晴れ、天に浮かんだ恒星Aldera(アルデラ)は、わずかに紫色を帯びた白い光を窓に届けている。


「ワゥッ」


 スピカはルークに出てこいというように、窓の縁に前脚を上げた。


「わかった、行く」


 ルークはドアを開けて部屋を出た。


 すると玄関のところで、アイラとその父親のレグスが話しているところに出くわす。


「おまえはもう行きなさい」


 レグスはアイラに小声でそう言う。

 アイラはこちらに頭を下げ、その場を去った。


「ルーク様、おでかけですかな?」


 ローブ型で生成《きな》りの、アストラ族の服装でそこに立つレグス。

 彼が、この島の統治者だ。


 長老はルークに対してウェルカムな態度だが、息子であるレグスがそうではないのは見て取れた。


「スピカが呼んでるので、遊んでやろうと」


 レグスは、わずかに口元を緩める。


「娘より、犬ですか」


 どうやら、アイラがルークにふられたことを聞いたらしい。


 ──だがこれはいい機会だ。この際はっきり言っておこう。

 その方がレグスとの関係も良好に保てる。


「長老には話したが、オレにはすでにテラ族の妻がいて、双子の子どもが生まれる。一人は男の子だ」


 レグスはわずかにうなずく。

 長老から話は聞いているのだろう。


「オレはテラ族の母親に育てられた。アストラ族の繁栄のためにできることはしたいと思うが、これからもEarthの医者でいたい。ここを統治していくのは、これまでもこれからもあなただ。オレじゃない」


「Earthに戻りたいと言うことだな?」


 ルークはうなずいた。


「ここの存在を明かさないでほしいのならそうするし、共存していくいい方法を考えたい」


 レグスもうなずいた。


「わかった。父とも話す」


「バゥ! バゥ!」


 スピカが玄関までやってきた。


「なんだよ、また何かあるのか?」


 ルークはそのままレグスの前をとおり過ぎ、スピカのそばへ行く。


 スピカはルークを仲間と思っているらしく、自分が隠した〝宝物〟を見せに来ることがある。

 どうやら今日もそんな感じだった。


 案の定、〝ついてこい〟というように首を振り、小走りに家の裏庭の方へ進んだ。

 おそらくEarthの賢い犬よりも、数段知能が高い。


 ここにスピカ以外の犬はもう残っていない。


 ジャラジャラつけられた影星晶の首輪。

 ルークの星脈に呼応するように発光するツノ。


 《ユニコーン・ドッグは神の化身で王の僕《しもべ》》


 古文書『King's Gate』にそう記載があり、神仏的な存在とされているようだ。


 実際、このあたり一帯がダリス族に〝魔の海域〟と呼ばれ、誰も近寄れないのは、スピカに星脈があるからなのではないか。


 自分よりスピカの跡取り問題の方がよっぽど深刻だ。


「バゥワゥ、ワゥッ!」


 今日はいつもよりテンション高めに吠え、裏庭から続く林の中に入っていく。


「待てよ、オレまだ脚痛いんだから……」


『ご主人さま、お怪我の具合はいかがですか?』


「ああ、だいぶい……えぇ?!」


 突然の懐かしい声に驚愕する。


「ワゥ!」


 スピカが立つ木の陰から、錆びた銀色のボディがゆっくり現れた。


『お久しぶりでございます、ご主人さま』


「L2-D2!」


 ルークはつい出てしまった自分の大きな声にハッとし、あたりを見回して人がいないことを確認する。

 そしてL2-D2のそばに駆け寄ると声のボリュームを下げた。


「おまえ、無事だったのか…」


『ご主人さまとは違う場所に漂着いたしまして、ここに来るまでに時間を要してしまいました』


「あぁ、なんだかおまえ、ずっと海に沈んでたドラム缶みたいになってるじゃないか……いたるところ凹んでるし」


 ルークはすっかり傷んでしまったL2-D2の体を撫でた。


『スピカはわたくしめの意思がつうじる、つまり星脈に呼応できる犬です。ですので、ご主人さまを呼んできていただきました』


 スピカは得意げに舌を出してハァハァ言いながら尻尾を振っている。


 星脈に呼応できるのか……だから意思がつうじるんだ。


『ダリス族がこのあたり一帯を〝魔の海域〟と呼ぶ力の正体は、スピカなのではないかと』


 L2-D2はすでにそれをリサーチ済みだった。


『スピカ自身に星脈があるわけではなく、このツノがアンテナのようにご主人さまの力を受信するのです。そのため、ここに他の種族は近寄れなかった。おそらく以前は、スピカの親やそのまた親がいて、二十八年間、代々でこの〝Elios〟を守ってきたのでしょう』


 なるほど、この光るツノはアンテナなのか。


「やっぱりおまえがこの島の守り神だったんだな」


 ルークはそう言いながらスピカを撫でた。


 スピカはうれしそうにツノをピンク色に発光させる。


 その幻想的な輝きに見惚《みほ》れかけたが、次の瞬間、勢いよく自分の尻尾を追いかけて回り始めた。


 普通に、犬だな。


 いくらすごい犬でも、スピカじゃ今後の対策までは立てられない。

 L2-D2が無事だったことは何よりだ。


「そうだ、ここにはアストラ族の文献が残ってる。それをスキャンしておきたいんだが」


『かしこまりました、ではマイクロスキャナーを……』


 L2-D2はそう言い、後頭部を開こうとするが、引っかかって開かない。


『お手数ですが、手動で開けていただいてよろしいでしょうか? あちこち故障している箇所がございまして』


「そりゃそうだろう、しかたない」


 ルークは変わり果てた姿の相棒を労《ねぎら》うように、後頭部に手を沿わせ、引き出しを開けた。


「てかおまえ、この程度の損傷で済んだところが凄いな」


『わたくしめのボディは、メビウスと同等の物でございますので』


 ──メビウス。


 その名を聞くと切なかった。


 この手で、爆破してしまった……


 そう思うと沸々《ふつふつ》と怒りが湧いてくる。


 クッソネリオス! 

 一生神経リンクが復活できないようにしてやる!


『ご主人さま、メビウスは消滅しておりませんよ』


 いつものL2-D2なら、目をキラーンと光らせるときの口調だ。

 だがその配線も切れている模様で光らない。


「消滅していない?」


『はい。メビウスの〝コア〟がこの惑星Dahliaのどこかに存在しています。そして、外部からこの星を守っているのです』


 だから、カルザ族は手を出せない状況にあるのか──


『ご主人さま、必ず、メビウスはご主人さまのもとへ戻ってくるでしょう。そのときが、この惑星を脱出し、リラさまのもとへ戻れるときとなるのです』


 L2-D2は、以前と変わらない確信に満ちた声でルークに語った。


『それまで、機会を待ちましょう』


 ルークは、相棒の言葉に強くうなずいた。


『わたくしは、ここにあまり長居するわけにいきませんので、移動します。データチップはスピカに預けてください』


「わかった」


 ルークはもう一度あたりを見回す。


『何かあればまたスピカをつうじて連絡を取りましょう』


「ああ、捕まらないように気をつけろよ」


 L2-D2だけが頼りだ。


『お任せください。では』


 L2-D2はルークに背を向けると茂みのなかへ姿を消した。


 ルークは、隣で尻尾を振りながらL2-D2が消えた茂みを見つめているスピカを撫でた。


「スピカ。あいつのことは、オレたちだけの秘密だからな」


「クゥン……」


 よし。

 夕飯までに例の書物のスキャンを済ませるとするか。


 L2-D2と再会できたことで、一歩進んだ。

 ルークにとってそれは、何よりも心強かった。



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