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【連載版】悪役令嬢に転生したけど前世で弁護士だったので第一皇子を訴えます!  作者: 雪丸


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9条 公爵家の秘密

 国王陛下への謁見から一夜明け、エーデルシュタイン公爵邸には、昨夜まで漂っていた張り詰めた空気が嘘のような静けさが流れていた。

 ヴィオレッタは侍女に整えられた髪を軽く撫でながら、公爵から初めて書庫に入る許可をもらったことを思い返していた。

 さらにその際に、好きに見て良いが最奥にある公爵家の歴史書には必ず目を通すように言われた。

 エーデルシュタイン公爵家の書庫は、帝国でも有数の蔵書数を誇ると聞いている。

 政治、軍事、魔法、貴族史。中には国家機密級の記録まで眠っていると言われ、家族であっても自由な出入りは許されない。


 それなのに。


『好きに見て構わん。ただし――最奥にある公爵家の歴史書だけは必ず読め』


 わざわざそう付け加えたのだ。


(……一体どういう風の吹き回しなのでしょうか?)


 椅子に座るヴィオレッタは窓の外へ視線を向ける。

 冬空は鈍色に染まっており、薄く雪が降っていた。

 昨夜の謁見で国王は確かに公爵家へ謝罪した。

 アシュレイ第一皇子による一連の暴走について、王家側の監督不足だったと認めたのだ。

 だが、国王と公爵の間には事前に何らかの取り決めがあったはずにもかかわらず、それを国王側が破った。しかもそのことについて公爵が怒っている様子がない。

 それらのきっかけがセドリックが何かを国王に伝えたことであり、その内容に自分が深く関わっているだろうとヴィオレッタは考えていた。

 だが肝心の内容の中身が分からない。


「お嬢様、書庫の準備が整っております」


 侍女の声で思考を断ち切られる。


「……ええ」


 ヴィオレッタは立ち上がった。

 案内されたのは、本邸の地下深く。重厚な鉄扉の前には、武装した騎士が二人立っていた。

 その光景にヴィオレッタは内心驚く。


(書庫に護衛……?)


 騎士たちはヴィオレッタを見ると静かに一礼し、扉を開いた。

 開けられた書庫から古い紙とインク、革表紙の匂いが流れ出す。

 そこはまるで別世界だった。

 天井まで届く巨大な本棚。無数の魔導灯。中央には長机が並び、古代語で記された書物まで置かれている。


「……凄い」


 思わず呟きが漏れた。

 これほどの知識が、一つの公爵家に蓄えられている。

 普通では考えられない量だ。

 まさに帝国の歴史そのもの。

 ヴィオレッタはゆっくりと書庫の中を歩き始めた。

 書庫の棚は綺麗に分類されており政治書、戦記、古代魔法理論など興味を惹かれる本がいくらでもあった。

 だが、公爵の言葉が頭から離れない。


『最奥の歴史書だけは必ず読め』


 まるで――何かを伝えようとしているようだった。

 様々な分野の本棚を抜け、ヴィオレッタは書庫の最深部へ辿り着いた。

 そこだけ空気が明らかに違った。

 周囲に一切のものが無く真ん中に大きく重厚な黒檀の棚が置かれている。

 さらにその下には古い結界術式が刻まれていた。


「王城の記録保管庫以上の守りだわ」


 ヴィオレッタはその異常さに恐怖を覚えると同時に好奇心を抑えられないでいた。

 あの本には、一体何が書かれているのか。

 慎重に本棚に近づきその中の一冊を手に取った。

 黒革の表紙には、銀文字でこう刻まれていた。


『エーデルシュタイン公爵家正史』


 ヴィオレッタがそっと本へ触れた瞬間。

 ――微かに魔力が反応した。


「……っ?」


 空気が震える。

 次の瞬間、本の表紙に浮かび上がったのは――。

 王族のみが持つはずの、王家の紋章だった。


「なぜ王家の紋章が浮かび上がるのかしら?」


 口に出して呟きながら、その答えを知るため本をめくる。

 その瞬間、ヴィオレッタは眩い光に畳み込まれ()()()()()()()()




 ヴィオレッタは気がつくと王城の謁見の間にいた。

 周囲にはたくさんの貴族たちがおり、全員タキシードやドレスに身を包んでいる。

 突然の展開に頭がついていけずその場に立ちすくんでいると、


「ヴィヴィアーヌ!」


 突然、一人の青年がヴィオレッタに向かって手を振りながら大声で近づいてきた。


「人違いで――」


 ヴィオレッタが人違いだと伝えようとした時、ヴィオレッタの身体を女性が通り抜けた。

 ヴィオレッタはギョッとして自身の身体に触れるも特に問題はなかった。ただ、少し透明になっているように感じた。


「これは白昼夢?」


 人が自分の身体を通り抜けるという異常事態に頭をフル回転させる。


「皇太子が手を振るなんてはしたないわよ、ユリウス」


 ヴィオレッタの身体を通り抜けた女性、ヴィヴィアーヌが嗜めた。

 たが、ユリウスと呼ばれた男性の方は笑って聴き流す。

 二人とも笑い合っておりそのやりとりが日常的に行われているであろうことが想像できた。

 そして、ヴィオレッタにはユリウスとヴィヴィアーヌという名前に覚えがあった。

 レイヴァルト王国二代目国王ユリウス•レオンハルトとその妃であるヴィヴィアーヌ•レオンハルトだ。

 つまりこれは白昼夢ではなく過去の記憶、公爵家の最奥にしまわれていた歴史書の力ということだ。


「お父様はこれを見せたかったの?」


 エーデルシュタイン公爵が伝えたかったものとはなんなのか。

 ヴィオレッタはその答えを知るため、ユリウスたちの会話に耳を傾けた。


次回 10条 ユリウス•レオンハルト

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