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【連載版】悪役令嬢に転生したけど前世で弁護士だったので第一皇子を訴えます!  作者: 雪丸


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8条 騒動の結末

 国王からの問いに謁見の間の空気がさらに重く沈んだ。

 重臣たちが息を潜める。

 王が、公爵でも宰相でもなく、一介の令嬢に裁きを問うなど異例中の異例だった。

 しかも内容は、第一王子の婚約破棄問題。

 答えを誤れば、最悪エーデルシュタイン公爵家を潰すことになりかねない。

 隣で公爵の視線が刺さる。


 ――余計なことは言うな。


 先ほどの言葉が脳裏を過る。

 だが、ここで沈黙する方が危険だとヴィオレッタは理解していた。国王は既に試している。法を語る覚悟があるのかを。

 ヴィオレッタは静かに一礼した。


「恐れながら申し上げます」


 心臓の音が周りに聞こえそうだった。


「今回の件で最も重要なのは、“誰が正しいか”ではなく、“王家がどう見えるか”にございます」


 アシュレイが露骨に顔をしかめる。

 ヴィオレッタは続けた。


「公開の場での婚約破棄、十分な証拠提示のない断罪、そして大貴族家への名誉侵害――これらを無処分で終わらせれば、“王族は法より上にある”と貴族社会へ示すことになります」


 国王は黙って聞いている。


「結果として、王家への不信が広がります。特に中立派貴族は敏感に反応するでしょう」


「……ならば処分が必要だと?」


「はい」


 ヴィオレッタは迷わず頷いた。


「ただし、第一王子殿下を重く断罪すべきではありません」


 その言葉に、今度はセドリックが僅かに目を見開いた。

 アシュレイも予想外だったのか、怪訝そうに眉を寄せる。


「ほう?」


 王が興味深そうに口元を歪める。


「理由を聞こう」


「第一王子殿下は王位継承者です。ここで過度な処罰を行えば、“王家内部が不安定である”と国内外へ示すことになります」


 ヴィオレッタは一歩も怯まない。


「必要なのは粛清ではなく、統治能力を示すことです」


 重臣たちの視線が変わった。

 単なる感情論ではない。国家運営の視点で語っている。


「では、どうする?」


「この場でアシュレイ様より公式謝罪を行っていただきます」


 ヴィオレッタは静かに告げた。


「なっ……!」


 アシュレイが立ち上がりかける。

 だがヴィオレッタは止まらない。


「これは処罰ではありません」


 紅い瞳が真っ直ぐアシュレイを射抜く。


「王家が法と秩序を尊重していると示すための政治的なパフォーマンスです」


 沈黙。

 長い沈黙だった。

 やがて――国王が小さく笑う。


「なるほど」


 その声には、僅かな感心が混じっていた。


「王家の威信を守るために、あえて頭を下げろと申すか」


「真に強い権力とは、必要な場面で自らを律するものにございます」


 ヴィオレッタの返答に、重臣の一人が思わず息を呑む。

 その言葉は、王族相手に言うにはあまりにも大胆だった。

 だが国王は怒らない。

 むしろ、楽しむように目を細めていた。


「アシュレイ、ヴィオレッタ嬢に謝罪しなさい」


「父上! このものの言うことを信じるのですか!」


「同じことを二度も言わすな!」


 先ほどまでヴィオレッタの答弁を楽しそうに聞いていた国王は態度を変え、この期に及んでごねるアシュレイをしかりつけた。


「ヴィオレッタ・エーデルシュタイン嬢、此度の件、誠に申し訳ない」


 顔に不満を浮かべながらも、形式に則った謝罪をしてアシュレイはヴィオレッタに頭を下げた。


「受け入れます」


 ヴィオレッタは涼しい顔で謝罪を受け入れる。

 その様子にアシュレイの顔がさらにゆがんだ。

 こうしてアシュレイとヴィオレッタの婚約破棄騒動は和解となり、二人の婚約も続けられることになった。




 帰りの馬車の中の空気は地獄だった。

 公爵には何も言うなと言われていたのにも関わらず、ヴィオレッタはかなり出過ぎた真似をしてしまった。

 公爵と国王の間の取り決めの中にヴィオレッタと話すというものはなかったのだろう。そうなると、やはり国王が話しかけてきたのは、セドリックが原因と思われた。

 今までの様子からセドリックがヴィオレッタに対して何らかの疑い、もしくは興味を抱いていることは理解している。だが、セドリックの個人的興味を伝えただけで、エーデルシュタイン公爵との事前の取り決めを破ってまで話しかけてくるだろうか。

 情報があまりにも足りず結論が出ない。

 ヴィオレッタが頭を悩ませる一方で、公爵も国王とセドリックの思惑に思考を巡らせていた。

 沈黙がしばらく続きあと少しで屋敷に到着するというところでついに公爵が口を開いた。


「今回の件、見事であった」


 意外にも、口から出てきたのはヴィオレッタを褒める言葉だった。


「セドリック第二皇子に吹き込まれたのか?」


 公爵の紅い目がこちらの考えを推し量ろうと見つめる。


「いえ、セドリック様には記録保管庫の中で調べるのを手伝っていたただいただけでございます。あの場の答弁の内容は、すべて私自身の考えを述べました」


 ヴィオレッタの冷静な返答に思案する公爵。

 馬車の窓枠をリズミカルに指でたたく音だけが響いた。


「どちらにしろ、お前は今回よくやってくれた」


 指を止めると、懐からルビーのネックレスを取り出す。


「しばらくの間、常に身に着けておきなさい」


「ありがとうございます」


 公爵から今まで物をもらったことなどない。ヴィオレッタは意図が分からず困惑した。

 その後、屋敷に着くまでどちらも一言も話さなかった。




ご覧いただきありがとうございます。

作者のモチベーションアップのために面白いと思った方、続きが読みたいという方はぜひ高評価をお願いします!!!

次回 9条 公爵家の秘密

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