42条 隠し通路
「殿下!」
部屋の外から慌ただしい足音が響く。
振り返ると、先ほど執事長を呼びに向かった護衛が青ざめた顔で飛び込んできた。
「執事長が見つかりません!」
「何だと?」
セドリックの目が鋭くなる。
「部屋にもおらず、使用人たちも所在を知らないと……!」
嫌な予感が胸をよぎった。
「逃げたのか……それとも」
セドリックは言葉を切った。
敵に連れ去られた可能性もある。あるいはさらに最悪な想定も頭をよぎった。
「殿下!」
今度は別の騎士が駆け込んでくる。
「北塔の地下倉庫で争った形跡が発見されました!」
「地下倉庫?」
「はい。血痕と壊れた家具が多数。さらに――」
騎士は息を呑む。
「執事長のものと思われる上着が見つかりました」
部屋の空気が凍りつく。
「案内しろ」
セドリックは即座に命じた。
騎士に案内され王城北塔の地下に移動した。普段は誰も寄り付かない古い保管庫の前に到着するも、扉は破壊されていた。
中へ入ると、確かに激しい戦闘の痕跡が残っている。
棚は倒れ、床には血痕が残っている。しかし、幸いにも死体はなかった。
「連れ去られたのか……」
セドリックが周囲を調べる。
すると、床に何かが落ちていることに気づいた。
小さな金属片だった。
「これは……」
拾い上げた瞬間、護衛隊長が目を見開く。
「その紋章は」
金属片には蛇が王冠に巻き付く紋章が刻まれていた。
セドリックの表情が険しくなる。
見覚えがあった。
ラングレン地方で押収した密書。そこにも同じ紋章が記されていたのだ。
「繋がったな」
護衛隊長が低く呟く。
「ラングレンの黒幕と今回の襲撃者は同一勢力です」
「ああ」
セドリックは頷いた。
そして、薄暗い部屋の中を見渡し、さらに異変に気付く。
血痕の一部が不自然だった。
争ったにしては量が少ない。まるで意図的に撒かれたようだ。
その時だった。倉庫の奥から微かな音が聞こえる。
カタン。
全員が剣に手を掛けた。
「誰だ!」
護衛隊長が叫ぶ。
返事はない。だが、物音は確かにした。
セドリックは積み上げられた木箱を一つずつ退けながらゆっくりと近づく。
そして、最後の箱を動かした。
「!」
箱の裏には、隠し扉があった。
セドリックもこんなところに隠し扉があるなど聞いたこともない。王城の設計図にも記されていない秘密の通路だろう。
その通路の扉は半開きになっていた。
護衛たちがざわめいた。
「まさか王城内にこんな場所が……」
セドリックは闇の奥を見つめる。
冷たい風が流れてきた。おそらくこの風が吹いたことで物音が鳴ったのだろう。
誰かが最近まで使っていたのは間違いない。そして、床には新しい足跡が残されていた。
「敵はここを使った」
そう断言した直後、通路の奥から突然苦しそうなうめき声が聞こえた。
「……た……すけ……」
全員が息を呑む。
聞こえた声は老人のものだった。執事長かもしれない。
セドリックの直感は警鐘を鳴らしていた。
これはあまりにも出来すぎている。
敵が残した誘導か、あるいは罠か。
それでも行かなければ真実には辿り着けない。
セドリックは静かに剣を抜いた。
「先頭は私が行く」
「殿下!」
「時間がない」
青白い闇へ一歩踏み込む。




