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【連載版】悪役令嬢に転生したけど前世で弁護士だったので第一皇子を訴えます!  作者: 雪丸


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44条 蛇

「全員、警戒を最大にしろ。二列で進む。後方も見張れ」


 セドリックは低く命じた。

 護衛隊長が渋い顔をしたが、すぐに頷く。


「第一隊は殿下を護衛。第二隊は後方警戒だ」


 隠し通路は想像以上に広かった。

 石造りの壁には古い松明の台座が並んでいるが、火は灯っていない。

 湿った空気と土の匂いが鼻をつく。


「こんな通路が王城の地下に……」


 若い騎士が呟く。


「建国以前の遺構かもしれんな」


 護衛隊長が答えた。


「……たすけて……」


 再び声が聞こえた。

 今度は少し近い。

 セドリックは足を速めた。

 やがて、通路は大きな空間へと繋がる。

 崩れた祭壇や砕けた石像がそこらじゅうに散らばっていた。巨大な地下礼拝堂だった。

 長年放置されていたのか、床には厚い埃が積もっている。しかし、その埃の上には無数の足跡が残されていた。


「最近まで使われていたな」


 セドリックが周囲を見渡す。すると、祭壇の脇に人影が見えた。


「そこか!」


 騎士たちが駆け寄る。

 倒れていたのは執事長だった。


「執事長!」


 セドリックが膝をつく。

 老人の服は血に染まり、顔色も悪い。だが、息はある。


「殿下……」


 執事長はかすれた声を漏らした。


「無事だったか」


「申し訳……ございません……」


「話は後だ。まず治療を――」


 その瞬間、辺りを警戒していた護衛隊長の表情が激変した。


「伏せてください!!」


 叫び声と同時だった。

 轟音が鳴り、礼拝堂の天井から巨大な石塊が落下した。


「殿下!!」


 護衛隊長がセドリックを突き飛ばす。

 石塊が床に激突し、凄まじい衝撃が地下空間を揺らした。

 土煙が舞い上がる。


 ガガガガガッ!!


 壁の隙間から無数の矢が射出された。


「罠だ!」


「盾を上げろ!!」


 騎士たちが叫ぶ。

 数名が矢を受けて倒れた。

 だが、混乱はそれだけでは終わらない。

 礼拝堂の奥に崩れた祭壇の背後から黒装束の集団が現れた。

 全員が蛇と王冠の紋章を身に着けている。


「待っていたぞ」


 先頭の男が笑った。

 銀色の仮面で顔を隠している。


「第二王子セドリック」


 その声に、執事長が震える。


「まさか……お前は……」


 仮面の男は執事長へ視線を向けた。


「余計なことを話したな、老いぼれ」


 次の瞬間、男の手から放たれた短剣が一直線に飛ぶ。


「危ない!」


 セドリックが剣で弾いた。

 金属音が響く。

 しかし、男は動じない。


「さすがだ」


 仮面の奥で笑う。

 黒装束たちが一斉に剣を抜いた。

 そして、男は静かに告げる。


「優秀すぎるというのも困りものだな」


 セドリックの瞳が細くなる。


「どういう意味だ?」


 男は両手を広げた。


「貴様が無能な皇子なら我々の存在に気づかずこんな場所で罠に嵌められることなどなかった」


 その言葉と同時に、背後で重い音が響いた。


 ゴゴゴゴゴ……


 振り返ると、入ってきた通路が巨大な石壁によって閉ざされていた。

 退路を断たれたのだ。

 護衛隊長の顔が険しくなる。


「包囲された……!」


 だが、セドリックは動じなかった。

 ゆっくりと剣を構える。


「ならば好都合だ」


 その声に敵がわずかに眉をひそめる。


「何?」


「探す手間が省けた」


 青い瞳に鋭い光が宿る。


「ここで貴様ら全員を捕らえる」


 地下礼拝堂に殺気が満ちた。

 先頭を駆けたセドリックの剣が、一人目の黒装束の剣を弾き飛ばした。


「はあっ!」


 返す刃で胴を薙ぐ。

 男は吹き飛び、石柱へ叩きつけられた。


「殿下に続け!」


 護衛隊長の号令とともに近衛騎士たちも突撃する。

 一瞬で地下礼拝堂は乱戦となった。

 限られた空間では、敵は数の優位を活かしづらい。セドリックたちは互いに背を預け、敵を迎え撃ち続けた。


「囲め!」


 仮面の男が命じる。

 左右から黒装束たちが迫る。

 その動きは統率が取れていた。


「ただの暗殺者ではない……!」


 護衛隊長が歯を食いしばる。

 敵は軍隊さながらの連携を見せていた。


「伏せろ!」


 セドリックが叫んだ。

 次の瞬間、白い煙が爆発的に広がる。


「煙幕だ!」


「目が……!」


 視界が一気に奪われる。

 騎士たちが咳こむ。しかし、セドリックだけは耳を澄ませていた。


(右だ。)


 風を切る音が聞こえる。煙の中から短剣が飛んできた。


 キィン!


 落ち着いて剣で弾き返す。

 さらに左から二人近づいてくるのを、足音だけで位置を読む。


「そこだ!」


 横薙ぎの一閃。

 黒装束の一人が悲鳴を上げて倒れた。


「殿下!」


 護衛の悲鳴が響いた。

 煙の奥から仮面の男が一直線にセドリックへ迫っていた。


「死ね」


 二人の刃が交差する。


 ガキィィン!


 凄まじい衝撃。

 セドリックは一歩も退かない。


「……強いな」


 仮面の男が低く笑いながら呟いた。

 互いに距離を取る。

 その一瞬の間で、セドリックは違和感を覚えた。


(この剣筋……)


 王国騎士団で教えられる剣術に酷似している。偶然とは思えなかった。


「貴様……誰に剣を習った」


 問い掛けると、仮面の男は肩を震わせた。


「気付いたか」


「やはり王国の人間か」


 仮面の男はその問いかけには答えずに喉元に鋭い一撃を入れてきた。

 劣勢になったセドリックを助けようと、護衛隊長が横から斬りかかる。


「殿下! ご無事ですか!」


「問題ない」


 周囲に目をやると、仮面の男以外の敵はほぼ護衛たちによって制圧されていた。

 

「あとは貴様だけだ。大人しく仮面を外し投降しろ」


 護衛隊長が呼びかける。


「少し戦力の見積が甘かったか」


 仮面の男は呟くと同時に煙幕を放った。

 煙が晴れた時には、仮面の男の姿は無かった。

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