41条 国王の寝室
国王の寝室へ向かう途中、王城内は完全な混乱状態に陥っていた。
騎士たちが怒号を飛ばし合い、侍従や侍女たちは青ざめた顔で廊下を走り回っている。
「道を開けろ!」
レオニスの怒声が響く。
人々が慌てて左右へ避けた。その間をセドリックたちは全力で駆け抜ける。
やがて国王の私室がある最上階へ辿り着いた。
「これは……」
セドリックが足を止める。
寝室前の廊下には数名の騎士が倒れており、その全員が重傷だった。血痕が床を染めている。
「生きているか!」
護衛隊長が駆け寄る。
倒れていた近衛騎士が苦しそうに頷いた。
「くっ……襲撃者が……」
「何人だ!」
「三人……」
その言葉に全員が眉をひそめる。
襲撃者はたったの三人だと言うのだ。
寝室を守る近衛騎士は二十名以上配置されていたはずだった。
三人で突破したというのか。
「中は!」
「まだ……」
騎士が答える前にレオニスが扉を蹴破った。
轟音と共に扉が吹き飛ぶ。
全員が室内へ突入した。
国王はベッドの上で横たわったままだった。
そして、その周囲には護衛騎士たちが倒れている。
「誰も死んでいない……?」
セドリックが呟いた。
全員気絶しているだけだった。
国王はもちろん、全員が生きていることにひとまず安堵した。
それも束の間、レオニスは即座に部屋を見渡す。
窓が開いており、夜風が吹き込んでいた。
「逃げたか」
護衛隊長が窓へ向かう。
レオニスは怪我人の手当てを命じる。
しかし、その横でセドリックは違和感を覚えた。
「違う」
「殿下?」
「目的は父上じゃない」
全員が振り返る。
「国王陛下を殺すなら、こんな回りくどいことはしない」
そもそもラングレン地方でセドリックたちを襲ったのは近衛騎士の副隊長だった。つまり、近衛の一部も敵の手に落ちていると考えられる。
なら国王陛下の暗殺自体はいつでもチャンスがあったのだろう。疑いを持たれ、警備の厳しくなっている今行うのは敵の狙いが見えない。
ふと、窓の隣に設置されている棚に目が止まった。
引き出しを全て開けられ、中身が散乱している。
その散乱する物の中に、小さな宝石箱のようなものが見えた。しかし、宝石類もその隣に散らばっている。
セドリックは箱を拾い上げた。
「これは……」
宝石箱は二重箱になっていたようでそこが無理やり開けられた痕跡が見られた。
レオニスの顔色が変わる。
「ずいぶん厳重な箱だな」
部屋の空気が一変した。
国王陛下がそれほど隠したかったものであり、敵が暗殺よりも優先して行いたいこと。
「敵の狙いは国王印か」
セドリックは静かに呟く。
「かなり強引な手段だが、あれがあれば王になったも同然だ」
現状、犯人の姿は目撃されておらず、何が奪われたかも不明。つまり、仮に国王印が奪われたものだとしてもそれを証明する手段がない。唯一の希望は国王陛下が目を覚ますことだけだった。
「アシュレイが持っていても推定無罪にするしかないってわけだ」
レオニスが苦々しく呟く。
セドリックはこんな時にヴィオレッタがいればという考えが頭をよぎった。
だが、すぐにそんな弱気な考えは捨てる。
(彼女を置いてきたのは私の勝手だ。今更頼ることなど許されない)
自分を奮い立たせるように護衛たちに命令を出す。
「今すぐ執事長にこの部屋の無くなったものが何か確認しろ。他のものはこの部屋に誰も近づかせないようにしろ!」
護衛の一人がすぐさま部屋を出て執事長を呼びに向かった。
他のものたちもすぐに部屋を守るために四方に分散した。
「俺は犯人を探す。この部屋は任せたぞ」
そう言い残してレオニスは、自身の護衛を引き連れて部屋を出ていった。
残されたセドリックは、部屋を見渡し他に怪しい点は無いかくまなく探す。
部屋を一周して歩き国王の眠るベットの前に来た。
「父上……」
眠ったまま目を覚さない国王の顔を眺める。その顔は穏やかで静かに寝息を立てていた。
眠りについたままの父を強く拳を握りしめる。
「絶対に暴いてやる」
眠り続ける父を見て、改めて強くそう思った。




