38条 王都の危機
ラングレン地方の処理を護衛隊へ任せ、セドリックは急ぎ王都へ向かっていた。
馬で駆けるセドリックたちには緊張感が漂っている。
「殿下」
「何だ」
「ヴィオレッタ様を置いて行ってよろしかったのですか?」
隣に並んで走る護衛隊長にセドリックが視線を向ける。
「……ああ」
セドリックはヴィオレッタをこれ以上危険な目にあわせたくなかった。
先ほどの弓矢もあと少し逸れていれば、ヴィオレッタに当たっていた。
あの瞬間、セドリックは生きた心地がしなかった。
「俺が離れればラングレン地方を狙う理由がなくなる。ヴィオレッタは安全だ」
セドリックの言葉に護衛隊長は黙り込んだ。
護衛隊はヴィオレッタに飛んでくる矢を、未然に防げなかったことを自分たちの失態であると考えていた。
そのため、セドリックの言葉に何も言えなかったのだ。
「急なことではあるが、結果として良かった」
それ以上何も言わず、セドリックは馬を走らせた。
丸一日、馬を走らせたところでセドリックたちは川のほとりで休憩を取っていた。
そこへ、遠くから馬の足音が近付く。
「殿下!」
剣のつかに手をかけ、警戒を強めたセドリックの前に現れたのは、王家の伝令だった。
馬を飛ばしながら叫ぶ。
「王都より緊急報告です!」
「何があった!」
伝令は息を切らしながら答える。
「国王陛下が倒れられました!」
空気が凍る。
「……何だと」
「執務中に突然意識を失われたとのことです!」
セドリックの表情が変わる。あまりにもタイミングが良すぎる。
「容態は?」
「すぐに王宮医が駆けつけたものの意識不明のままです」
セドリックの拳が握られる。
「原因は?」
「原因不明と」
原因不明。その言葉が余計に不気味だった。
「急ぐぞ!」
二日間に渡り、ほとんど休憩を取らずにセドリックたちは王都を目指した。
本来ならば四日かかる道を二日で走破した。
王城の周囲は異様な緊張感に包まれていた。近衛騎士が通常の倍以上配置されている。貴族たちも慌ただしく動いていた。
セドリックが到着すると、すぐに側近が駆け寄る。
「殿下!」
「陛下は!」
「まだ目覚めておりません」
「兄上は?」
側近が少し言い淀む。
「第一皇子殿下は現在、政務代行を務めております」
セドリックの目が細くなる。
予想通りだった。
国王が倒れれば、第一継承者であるアシュレイが権限を握る。
「会わせろ」
「それが……」
側近の顔色が悪い。
「アシュレイ殿下より命令が出ております」
「何だ」
「第二皇子セドリックは、ラングレン地方での不正調査において権限を逸脱した疑いがあるため、自室待機とする――と」
護衛隊長が激怒した。
「ふざけるな!」
だが、セドリックは冷静だった。
「なるほど」
ようやく敵の狙いが見えた。
ラングレン地方の事件、国王の倒れるタイミング、近衛騎士の関与までの全てが繋がる。
相手は証拠が王都へ届く前に、自分を動けなくするつもりなのだ。
その時だった。背後から聞き慣れた声が響く。
「相変わらず面倒なことになっているな」
一同が振り返る。
そこに立っていた人物を見て、セドリックが驚いた。
「叔父上」
王弟レオニスだった。
国王の弟であり、軍部に強い影響力を持つ男。
今回の王位継承争いでは中立を貫いていた人物でもある。
レオニスは苦笑した。
「久しぶりだな」
「なぜこちらへ」
「兄上が倒れたからだ」
国王が倒れてすぐ、王弟レオニスは王城の混乱を収めていた。
「お前に使者を送ったのも俺だ。もう二、三日はかかると思っていたが早かったな」
そのままセドリックたちはレオニスの部屋へと移動する。
レオニスからここ数日の王都の動向を教えてもらう。
国王が意識を失った原因は不明であり、病気、暗殺の両面で捜査をしていること。
レオニスが王城を抑えるよりも先にアシュレイが既に国王の執務室にいたこと。
王都に見慣れない人物が目撃されていること。
それらの報告を聞き、セドリックもまた、元代官ガルドの暗殺の件や近衛騎士内に裏切り者がいることを伝える。
「近衛に裏切り者か」
レオニスが渋い顔をする。
「ひとまずお前は護衛を常に二人はそばにおけ。俺が調べておく」
レオニスもまた、不吉な動きが王都で起こっていることを感じていた。




