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【連載版】悪役令嬢に転生したけど前世で弁護士だったので第一皇子を訴えます!  作者: 雪丸


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37/43

37条 近衛

 広場は水を打ったように静まり返った。

 全員の視線がヴィオレッタへ集まる。

 護衛隊に取り押さえられた監査局の役人は顔面蒼白だった。


「読んでくれ」


 セドリックが静かに言う。

 ヴィオレッタは書簡を開いた。

 そこには複数のやり取りが記されていた。

 ガルドへの資金提供、監査報告の改竄、地方復興予算の妨害。


「これは……」


 ヴィオレッタが目を細める。

 書簡の最後にある差出人の署名欄だった。

 そこに記されていた名を見て、ヴィオレッタが息を呑む。


「そんな……」


ヴィオレッタは驚きながらもその名前を読み上げようとした。


「差出人は――」


 その時だった。


 ヒュンッ!


 鋭い風切り音が響く。


「危ない!」


 セドリックがヴィオレッタを引き寄せる。


 直後、一本の矢が飛来し、書簡を持っていたヴィオレッタの手を掠めた。

 紙が宙へ舞う。


「敵襲!」


「弓兵だ!」


 広場が一気に混乱へ包まれた。

 騎士たちが盾を構え、すぐにセドリックとヴィオレッタの周りを固めた。

 矢が飛んできた方向を見た護衛隊長が叫ぶ。


「鐘楼だ!」


 広場の隅にある古い鐘楼。その上に黒い影が見えた。


「捕らえろ!」


 騎士たちが駆け出す。

 だが、影はすぐにそこから飛び降りた。

 異常な身のこなしだった。

 そして、人混みを利用しながら逃げていく。


「逃がすな!」


 セドリックも馬へ飛び乗る。


「殿下!」


「ヴィオレッタはここを頼む!」


 そう言い残し、追跡へ向かった。




 逃亡者は村を抜け、森へ入った。

 それを騎士たちが追う。しかし、距離はなかなか縮まらない。


「何者だ……!」


 護衛隊長が舌打ちする。

 普通の刺客ではない。訓練された動きだった。

 やがて、森の奥の崖へ辿り着く。

 逃亡者はそこで足を止めた。

 追いついたセドリックが馬から降りる。


「終わりだ」


 周囲は完全に包囲されている。逃げ場はない。

 黒装束の人物はゆっくり振り返った。

 フードの奥から見えた顔に、護衛隊長が驚愕する。


「お前は……!」


 王都監査局の人間ではない。たが、貴族でもない。しかし、セドリックたちが王城で何度も見た顔だった。


「近衛騎士団の副団長だと……」


 セドリックの目が細くなる。

 男は薄く笑った。


「さすがですね、殿下」


 王族直属の近衛騎士。王の剣であり、全騎士の憧れる名誉ある職に就くものだ。

 

「誰の命令だ」


 セドリックの問いに、男は笑う。


「答えると思いますか?」


「なら力ずくで聞く」


 騎士たちが前へ出た。

 だが、男は慌てない。むしろ安心したような顔をした。


「間に合いました」


「何?」


 次の瞬間、男は懐から小さな筒を取り出した。

 そして空へ向ける。


 パンッ!


 赤い火花が打ち上がった。

 信号弾だった。

 セドリックの表情が変わる。


「何の合図だ!」


 男は笑う。


「もう遅い」


 男は崖を背にしたまま言った。


「ガルドも監査局も、全ては捨て駒です」


 セドリックの胸に嫌な予感が走る。


「本当の目的は別にある」


 男は初めて愉快そうに笑った。


「王位継承試験が始まる前からずっと計画されていたのですよ」


 その場の空気が凍り付く。


「……何だと?」


「まず、手始めに第二皇子セドリックを失格にする」


 セドリックは剣を強く握る。

 男は静かに言った。


「ですが、あなたは想像以上だった」


「……」


「だから計画は変更された」


 その言葉にセドリックは気付く。

 今、この瞬間も、別の何かが動いている。


「何をした」


 男は答えない。

 ただ一言だけ残した。


「王都へ急いだ方がいい」


 そして、自ら崖の下へ身を投げた。


「なっ!」


 騎士たちが駆け寄る。

 だが、既に遅い。男は遥か下の激流へ消えていた。

 セドリックは崖下を睨む。

 胸の中で警鐘が鳴っていた。

 今度は王都で何かが起きている。

 セドリックは即座に命じた。


「ラングレン地方の警備を増強しろ」


「はっ!」


「私は王都へ戻る」


 ヴィオレッタへも急使を送る。

 戦いの舞台は地方から王都へ移ろうとしていた。

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