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【連載版】悪役令嬢に転生したけど前世で弁護士だったので第一皇子を訴えます!  作者: 雪丸


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34/43

34条 作戦

 村長の家の一室には、セドリック、ヴィオレッタ、護衛隊長、そして数名の信頼できる者だけが集まっていた。

 机の上には帳簿が並べられている。


「問題は三日しかないことだな」


 護衛隊長が腕を組む。


「相手も動くでしょう」


「ああ」


 セドリックは頷いた。


「だからこちらも動く」


 ヴィオレッタが帳簿を開いた。


「ガルドが持ってきた命令書は偽物です」


「間違いないのか?」


「はい」


「監査局の文書番号の付け方が違います。それに印章も微妙に形が異なっていました」


 護衛隊長が驚く。


「そこまで分かるのですか」


「公爵家では王都とのやり取りも多いですから」


 ヴィオレッタは続ける。


「ですが、偽造できる人間が背後にいるということです」


 部屋が静まり返った。

 地方代官にすぎないガルドには、王都の文書を偽造するなど不可能だ。


「王都側に協力者がいる可能性が高いですね」


「私もそう思う」


 セドリックは帳簿の一冊を指で叩いた。


「そして、この帳簿が証拠になると向こうも理解しているはずだ」


「なら奪いに来ますか?」


 護衛隊長の問いにセドリックは首を横に振った。


「いや」


「違うのですか?」


「帳簿は既に見つかっている」


 セドリックの目が鋭くなる。


「今さら盗んでも意味がない」


 その瞬間、ヴィオレッタも気付いた。


「証人……」


「そうだ」


 セドリックが頷く。


「次に狙われるのは証人だ」


 村長の顔色が変わる。


「まさか」


「ガルドの不正を知っている者は誰だ?」


「元徴税官、それから村によく来ていた何人かの商人たちは知っていたと思われます」


「今すぐ全員保護しろ」


 護衛隊長が即座に立ち上がった。

 そして、護衛隊長と入れ替わるように、外から慌ただしい足音が近付いてくる。


「殿下!」


 一人の騎士が飛び込んできた。


「どうした」


「北の街道で襲撃事件が発生しました!」


 すぐにその場の全員が立ち上がる。


「被害はどれくらいだ?」


「商人の馬車が襲われました」


「盗賊か?」


「それが――」


 騎士は困惑した表情で答えた。


「荷物には手を付けていません」


 部屋の空気が変わった。

 荷物を奪わない盗賊など存在しない。


「狙いは人間か」


 セドリックが呟く。


「はい」


 騎士は頷いた。


「襲われたのは商人ギルド所属のハンスです」


 ガルドの不正に関与していると思われる証人候補の人物だ。

 ヴィオレッタの表情が険しくなる。


「もう動き始めたのですね」


「ああ」


 セドリックは立ち上がった。


「予想以上に早い」


「どうされますか?」


 護衛隊長の問いにセドリックは少し考え、静かに命じた。


「予定を変更する」


「変更?」


「こちらから罠を張る」


 一同が顔を見合わせる。

 セドリックは机の上に地図を広げた。


「明日、帳簿の原本を王都へ送るという情報を流せ」


 護衛隊長が目を見開く。

 ヴィオレッタもすぐに意図を理解した。


「偽の情報を撒いて炙り出すつもりですね」


「ああ」


 セドリックの指が街道の一点を示す。


「相手は必ず食いつく」


 そして、その笑みが消える。


「そこで捕まえる」




 翌日からラングレン地方には密かに噂が流れ始めていた。


『決定的証拠の帳簿が王都へ運ばれるらしい』


 その噂は驚くほど早く広がる。

 そして、その日の夕方、ラングレン地方から王都に向かう街道沿いを馬車の一団がゆっくりと進んでいた。

 その様子を街道脇の森の中から、黒装束の男たちが身を潜めて見ていた。


「本当に来たな」


「ああ」


「帳簿を奪えば終わりだ」


 彼らは弓を構え、一斉に矢を放った。

 馬車の前を走っていた馬が驚き、一団が急停止した。


「今だ!」


 十数人の黒装束が一斉に飛び出す。

 それに合わせて、護衛の騎士たちも剣を抜く。彼らは妙に慌てていなかった。


「かかったな」


 騎士の一人が呟く。


「何?」


 黒装束たちが違和感を覚えた瞬間だった。


「囲め!」


 森の奥から怒号が響く。

 次の瞬間、周囲の茂みから大量の騎士が現れた。


「なっ!?」


「伏兵だ!」


 完全包囲。

 黒装束たちの顔色が変わる。

 そして、その中央へセドリックが馬を進めてきた。


「逃がすな」


 冷たい声だった。


「一人残らず捕らえろ」


「はっ!」


 騎士たちが一斉に突撃する。

 黒装束たちも応戦した。しかし、数が違う。さらに、彼らは襲撃専門の私兵であり、正規の騎士には及ばなかった。

 数分後には戦いが終わり、黒装束たちは全員地面に押さえ付けられていた。


「報告!」


 護衛隊長が駆け寄る。


「十五名確保しました!」


「死者は?」


「なしです」


 セドリックは頷いた。


「よし」


 すると、その時だった。

 一人の騎士が慌てて駆けてくる。


「殿下!」


「何だ」


「妙な物を持っていました」


 差し出されたのは革袋だった。

 中には金貨と一枚の紙。

 セドリックがその紙を開く。

 ヴィオレッタもそれを隣から覗き込んだ。

 そこに書かれていた文字を見て二人の表情が変わる。


「これは……」


 護衛隊長が尋ねる。


「何が書いてあるのですか?」


 セドリックは無言だった。

 代わりにヴィオレッタが答える。


「支払い指示書です」


「誰の名前が?」


 部屋ならぬ森の中の空気が張り詰める。

 ヴィオレッタはゆっくり読み上げた。


「ラングレン地方旧代官ガルドへ、活動資金として金貨五百枚を支給する」


「やはりガルドか」


 護衛隊長が吐き捨てる。

 だが、ヴィオレッタの視線はそこでは止まっていなかった。

 紙の下部にある署名欄。

 そこに記されていた名前を見ていた。


「……殿下」


「ああ」


 セドリックの表情が険しくなる。

 護衛隊長も気付いた。


「まさか」


 署名されていたのはガルドではない。

 もっと上の人物だった。


『王都監査局次長 ロベルト・クラウス』


 全員が息を呑む。

 王都の官僚。それも監査局の幹部だ。偽命令書を作れる立場の人物だった。


「繋がったな」


 セドリックが低く呟く。


「監査局まで腐っていたか」


 ヴィオレッタは冷静に考える。

 だが、すぐに違和感を覚えた。


「いいえ」


「何だ?」


「おかしいです」


 ヴィオレッタは紙を見つめる。


「監査局次長ほどの立場の人間が、こんな証拠を残しますか?」


 その言葉で全員が黙った。

 確かにそうだ。あまりにも分かりやすすぎる。

 セドリックも同じ結論に達していた。


「偽装か」


「はい」


 ヴィオレッタは頷く。


「本命を隠すための囮です」


 その時、捕らえられていた黒装束の一人が突然笑い始めた。


「ククク……」


 騎士たちが顔を向ける。


「何がおかしい」


 男は血の滲む口元を歪めた。


「遅い」


「何?」


「もう終わってる」


 嫌な予感が走る。

 セドリックの目が鋭くなった。


「何の話だ」


 男は狂気じみた笑みを浮かべた。


「今頃、村が燃えてるぞ」

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