32条 復興作業Ⅳ
馬を用意していたという報告を受け、セドリックはしばらく黙り込んだ。
そして、静かに口を開く。
「村の人間だけではないな」
「ええ」
ヴィオレッタも同意する。
「これほどの資金と準備を行える相手です。背後に相当な後ろ盾があります」
護衛隊長が尋ねた。
「追跡は続けますか?」
「いや」
セドリックは首を振る。
「今は無理だ。夜の森で深追いすれば逆にこちらが罠へ掛かる」
「では」
「捕まえる方法を変える」
そう言うと、彼は革袋を護衛へ渡した。
「この件は極秘だ」
「はっ」
「犯人を逃したことにしておけ」
護衛たちは驚いた。
「殿下?」
「相手はこちらの動きを探っている。ならばこちらも利用する」
ヴィオレッタがすぐに意図を理解する。
「まだ山道の破壊に失敗したと知られていないうちに、次の動きを誘うのですね」
「その通りだ」
セドリックは夜空を見上げた。
「相手は結果を確認しに来るはずだ」
その瞳は獲物を追う狩人のように鋭かった。
翌朝。
何事もなかったかのように工事は続いていた。
大工たちは木材を運び、石工たちは崖の補強を進めている。村人たちもそれに協力し、山道の整備は順調だった。
だが、その裏では護衛たちが密かに動いていた。
村へ出入りする商人、旅人、職人。
そのすべての記録を取らせている。
そして半日が過ぎたころ、一人の護衛が報告へやってきた。
「殿下」
「どうした」
「不審な動きがありました」
セドリックは顔を上げる。
「話せ」
「今朝、村の外れにある空き家へ男が出入りしています」
「誰だ」
「分かりません。ただ、村人ではありません」
ヴィオレッタが眉をひそめる。
「空き家ですか?」
「はい。男は出てきた後、すぐに北へ向かいました」
「監視は?」
「続けています」
セドリックは少し考えた。
「その空き家を調べろ」
「はっ」
「周囲に誰もいないことを確認してから行え」
護衛は敬礼して去っていった。
そして、夕方になり、調査に向かった護衛たちが戻ってきた。
しかし、その表情は硬かった。
「殿下」
「何があった」
「空き家でこれを発見しました」
差し出されたのは一冊の帳簿だった。
セドリックがページをめくる。
そこには日付と金額、そして複数の名前が記されていた。
「裏金の記録か」
「そのようです」
さらに最後のページには一行だけ文章があった。
『ラングレン管理官へ支払い済み』
その瞬間、村長が顔色を変えた。
「まさか……」
セドリックの視線が向く。
「何か知っているのか」
村長はしばらく迷った後、小さく頷いた。
「前の代官です」
「代官?」
「はい。ラングレン地方を管理していた代官ガルドです」
ヴィオレッタが目を細める。
「更迭された人物でしたね」
セドリックが東ラングレン地方に派遣されてすぐ、代官ガルドは今回の不作の責任を取らされて更迭されていた。
だが、これはあくまで表向きの話であり、実際には、アシュレイ派の貴族と繋がりがあったので、王都にいるエーデルシュタイン公爵が画策して代官から引きずり下ろしたのだった。
「あの男は長年、この地方を支配していました」
村長の声には怒りが滲んでいた。
「税を不正に徴収し、復興資金も横領していたのです」
「証拠が見つかり解任された」
セドリックも報告書で読んでいた。
エーデルシュタイン公爵から、不正だらけで更迭するのが簡単だったというような内容の手紙が来ていた。
さらに、エーデルシュタイン公爵からの手紙では、更迭したがもう少し裏を探りたいので軽めの罰にしたとも書かれていた。
ヴィオレッタが静かに言った。
「つまり、自分の不正が暴かれた原因である復興計画を邪魔したいということでしょうか?」
「その可能性は高いな」
セドリックは帳簿を閉じた。
だが、すぐに外から慌ただしい足音が聞こえた。
若い騎士が飛び込んでくる。
「殿下!」
「今度は何だ」
「村の南門です!」
「南門?」
「代官ガルドが現れました!」
全員が息を呑んだ。
「ガルドだと?」
「はい!」
騎士は緊張した顔で続ける。
「しかも大勢の私兵を連れています!」
「村人たちを避難させろ!」
セドリックはすぐに立ち上がった。




